「住宅用家屋証明」について整理してみました

皆さんは「住宅用家屋証明」という用語を耳にされたことがあると思います。
住宅用家屋証明の制度は、個人の良質な持家の取得を促進し、もって国民の居住水準の向上を図るという住宅政策上から、一定の要件を充たす住宅に対して、登録免許税の軽減措置が受けられるように設けられたものであり、新築住宅の保存登記や中古住宅の売買による移転登記、あるいはこれらのための借入金を担保するための抵当権設定登記の際、その建物が住宅用家屋証明の適用対象である場合には、登録免許税が軽減されます。
決済のご連絡を受ける際、仲介業者さんから住宅用家屋証明についてのご質問やお問い合わせを受けることが少なくありません。仲介業者の皆様にとって、登記費用は顧客の利益に直結する重要な要素ですので、関心が高いのは当然のことでしょう。
そこで今回は、住宅用家屋証明の適用を受けるための要件を中心にご説明します。今後の不動産取引のご参考になれば幸いです。
なお、本稿の入稿後、平成21年6月4日に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」により、同日以降に新築された建物について、通常の税率よりもさらに軽減される制度がスタートしましたので、本稿末尾にその概要をご紹介します。

1 制度の概要
住宅用家屋証明の法的根拠は、租税特別措置法という法律です。租税特別措置法はいわゆる「時限立法」ですが、期限切れとなる直前の国会で法改正されるのが通例となっています。したがって、今後も当面の間、制度がなくなることはないでしょう。

(1)税率の軽減
@ 所有権保存登記 固定資産評価額(※)× 1000分の4   ⇒  1000分の1.5
A 所有権移転登記 固定資産評価額(※)× 1000分の20  ⇒  1000分の3
※ 新築建物で評価額のない場合、法務局が定めた
「新築建物課税標準価格認定基準表」による
B 抵当権設定登記 融資額 × 1000分の4   ⇒  1000分の1
中古住宅の売買で融資を受ける場合、移転登記と設定登記の双方で適用が受けられますので、購入者にとっての経済的利益は非常に大きいと言えます。

(2)適用を受けることができる者
@ 個人に限ります。法人は適用が受けられません。
A 外国人であっても適用可能です。
B 単独所有に限りませんので、共有の場合にも共有者全員に適用が受けられます。
但し、共有者の内の一部に要件(後掲(4)「居住の用の要件」参照)を充たしていない方がいる場合には、その方の持分相当については通常の税率が適用されます

(3)適用を受けるための要件@ 〜 自己居住用建物であること
自己用建物か否かは、登記記録上の「種類」で判断されます。
以下、登記記録上の「種類」について、ケースごとにご説明します。
イ・専用住宅の場合
登記記録上の「種類」は、原則として「居宅」であることが必要です。
住宅用家屋証明は建物所有者自身が居住する目的の建物に適用されるものですので、賃貸目的である「共同住宅」には、適用がありません
なお、登記記録上の「種類」が、「居宅・車庫」あるいは「居宅・物置」等の場合、車庫や物置は居住の目的で住宅に付随して使用される建物であるために専用住宅として扱われ、建物全体について適用が受けられます。     
ロ・併用住宅の場合
一方、同じ併用住宅でも、登記記録上の「種類」が、「居宅・店舗」「居宅・事務所」等のように、建物全体として住宅の効用を果たしていると評価できない場合、居宅部分の床面積が総床面積の90%以上(居宅部分以外の床面積が10%未満)であれば、建物全体について適用が受けられます。
床面積の内訳は、原則として建築確認書を参考に市町村が判断することとなりますが、表題登記を担当した土地家屋調査士が作成した「床面積の内訳を証する書面」を提出することが実務上の通例です。
なお、居宅部分以外の床面積が10%以上である場合には、建物全体について適用が受けられないのであり、居宅部分に限って適用が受けられるわけではありませんので、ご注意ください。
ハ・付属建物がある場合
a)付属建物の「種類」が、「居宅」「物置」「車庫」等、主たる建物と一体となって住宅の効用を果たすものの場合、付属建物を合わせて建物全体で適用が受けられます
b)付属建物の「種類」が、「事務所」「店舗」等の場合、付属建物の床面積が主たる建物の床面積との合計面積の10%未満であれば、付属建物を合わせて建物全体で適用が受けられます
10%を超える場合、主たる建物についても適用が受けられないのは、併用住宅の場合と同様です。

(4)適用を受けるための要件A 〜 居住の用の要件
居住の用に供せられる建物であるか否かについては、住宅用家屋証明の申請者が、申請しようとする建物に入居済みであることを要します。
入居済みか否かは、住民票で判断するのが実務慣行です。このため、中古住宅の売買の場合等では、決済に先立って買主さんに購入物件所在地への住所移転をお願いしています。
この点、市町村の取り扱いでは「現実に住み始めていない場合には転居届は受け付けない」とするのが一般ですので、本来であれば決済前に住民票の移動をすることはできませんが、そうすると住宅用家屋証明の適用が受けられないというデメリットが生じるため、便宜、転居届の窓口で「既に引っ越した」等と申告してもらっているのが現実です(なお、単身赴任等、やむを得ない事情がある場合には、例外的に受理されるケースもあるようです)。

(5)適用を受けるための要件B 〜 建物の構造・床面積の要件
建物そのものの「構造」や「床面積」による制限もあります。これらの点も(3)と同様に登記記録上から判断されます。
イ・構造
a)新築建物の保存登記,建売住宅の移転登記(建築会社名義で保存登記をした場合)
戸建住宅の場合、構造(主たる部分の構成材料、屋根の種類、階数等)による制限はありません。
区分建物(マンション等)の場合は、下記のいずれかの場合に限って適用が受けられます。
@)耐火建築物(建築基準法2条9号の2)
A)簡易耐火建築物(建築基準法2条9号の3)
B)低層集合住宅・・・面積1000u以上の一団の土地に集合的に建築された地上階数3以下の1棟の建物で、建築基準法2条9号の3に規定する耐火建築物に準ずる耐火性能を有するものとして国土交通大臣の定める基準に適合するもの
b)中古住宅の移転登記 @
登記記録上の「構造」が、「木造」「軽量鉄骨造」等、耐火(準耐火)建築物以外の建物は、建築後20年以内、それ以外の耐火(準耐火)建築物(登記記録上の「構造」が、「鉄骨造」「鉄筋コンクリート造」等)の場合は、建築後25年以内であることを要します。
建築の日は、やはり登記記録上から判断し、決済日を基準に20年または25年以内であるか否かを考慮していただければ結構です。
c)中古住宅の移転登記 A 〜 耐震基準適合建物
b)の20年または25年が経過している建物であっても、建築士等が「耐震基準適合証明書」を発行している建物であれば、適用が受けられます。
浜松市の取り扱いでは、建築士等が作成する「証明書」のほかに、「壁量計算書」等の適合を判断する際に用いた資料の提供を要することとなっていますので、「証明書」に加え、建築確認書の原本をあわせてご用意いただく方が無難であると考えます。
ロ・床面積
床面積は50u以上であることを要します。
ワンルームマンション等の場合、この下限制限に抵触するために適用が受けられないケースもあるので、ご注意ください。
なお、かつては上限200uという要件もありましたが、現在は撤廃されていますので、どれだけ大きい建物でも適用が受けられます。

(6)適用を受けるための要件C 〜 登記を受ける時期の要件
下記のとおり、登記を受ける時期によっても、適用が受けられるケースと受けられないケースとが出てきます。
a)保存登記
新築(増築)または取得(未保存登記の建売住宅)後、1年以内。
新築後1年以内の付属建物は、主たる建物を保存登記する場合に、主たる建物と同様に適用が受けられます(但、前掲(3)「自己居住用建物」よる制限に注意)。
一方、新築後1年を超える付属建物がある場合、主たる建物についてのみ適用が受けられる点にご注意ください。
b)移転登記
取得後、1年以内
例えば、新築したが住宅ローンを利用しなかったために登記を留保するようなケースも見受けられますが、建築から1年を経過すれば、通常の税率で保存登記の登録免許税を納付しなければなりません。

 

2 登記申請上の問題
住宅用家屋証明の主な適用要件は以上のとおりですが、このほかにも、登記申請上の細々とした要件がいくつかありますので場面ごとに列挙します。但し、ケースごと事前協議を要するようなものもありますので、本稿に記載のないケースにつきましては、決済前に登記申請を担当する司法書士にお尋ねください。

(1)移転登記
@ 取得原因は「売買」あるいは「競売による買受」に限定されます。
かつては、贈与や交換等も認められていましたが、平成15年の法改正により上記の2つに限定されています。
A 先に仮登記をしている場合、この仮登記を本登記する場合も適用が受けられます。
B 住宅用家屋証明は建物についての減税ですので、土地建物をまとめて購入する場合も、土地については通常の税率(売買の場合、現行は1000分の10)で登録免許税を納付しなければなりません。

(2)設定登記
@ 適用があるのは抵当権だけです。
住宅ローンであっても、根抵当権が設定される場合には適用が受けられません。
A 借入原因は、建物の新築、増築、取得のためであることを要します。
保証会社が抵当権者となり、将来の求償債権を担保に抵当権設定をするようなケースも実務では頻出しますが、この場合も適用が受けられます。
B 土地建物を一括購入する場合、土地購入資金と建物購入資金とが一括で融資される場合や、特に内訳が明記されずに融資される場合、土地購入資金を含めた全額について適用が受けられます(実務上は、ほとんどのケースで全額について適用を受けています)。
C 登記上の「債務者」は、建物所有者の全部または一部(共有の場合)と一致していることを要します。
債務者がA,所有者がABでも、借入金全額について適用が受けられます
適用を受けられない者(前掲(4)「居住の用の要件」参照)が連帯債務者となっている場合でも、差し支えありません。
D 金融機関からの借入れに限りませんので、勤務先、ノンバンク、共済等を利用する場合でも適用が受けられます。
E 建物の底地だけでなく、他の土地建物を共同担保とする場合でも適用が受けられます。
購入する土地建物だけでは評価割れするため、親の所有物件を添え担保するようなケースがこれに当たります。

 

3 長期優良住宅に関する特例
平成21年6月4日に、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行されました。
同日以降に新築された建物の保存登記、または同日以降に取得された建築後使用されていない建物の移転登記(建売住宅で、建築業者名で保存登記が済んでいるようなケース)では、通常の住宅用家屋証明の適用案件よりも、さらに登録免許税の税率が軽減されることになりました。
以下、概要をご紹介します。

・税率


登録免許税の税率 

 

本則

通常の住宅特例

長期優良住宅

所有権保存登記

4/1000

1.5/1000

1/1000

所有権移転登記

20/1000

3/1000

1/1000

抵当権設定登記

4/1000

1/1000

1/1000

・長期優良住宅の認定
申請しようとする住宅が「長期優良住宅」であるか否かは、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律施行規則」の定める認定通知書によって判断します。
建築士さんからの伺った情報ですが、浜松市の場合、申請窓口は「まちづくりセンター」で、住宅の着工前に申請する必要があるとのことです。認定されれば、登録免許税の軽減にはつながるわけですが、「長期優良住宅」の認定手続きのために建築士さんの方で発生する諸経費とを比較検討すると、かえって経費が余分にかかってしまうケースも多いようです。
関心のある方は、住宅着工前の早い段階で建築士と司法書士との双方にお尋ねください。


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