貸金業法再改正をめぐる動向@

貸金業法再改正をめぐる動向@

7月19日正午より、参議院議員会館にて、院内集会「改正貸金業法の成果を検証する〜利息制限法の改悪を許さない!」が開催された。以下は、集会において議論された、現時点における貸金業法再改正をめぐる論点を整理したものである。長文ではあるが、重要な問題であるので、ぜひご一読いただきたい。

1 法改正以後の状況
平成18年に貸金業法が改正された当時の統計は、以下のとおりであった(金融庁、日本信用情報機構、司法統計年報、警察庁生活安全局)。

◆ サラ金利用者     1400万人   ◆ 5件以上借入れ     230万人
◆ 年間の自己破産者 18万4000人   ◆ 負債による年間の自殺者 1973人

 高金利を原因とする多重債務被害を撲滅するための運動は大きな成果を残し、法改正の翌年には「多重債務問題改善プログラム」(以下、「プログラム」という)が決定された。プログラムに基づき、個人の多重債務者に対する手当てとして、今日まで @相談窓口の拡充、Aセーフティネット貸付け、Bヤミ金の撲滅、C消費者教育 の4点が、官民協同により推進されてきた。
さらに平成20年には、リーマン・ショック以降の中小企業の資金繰りに対する手当てとして、緊急保証制度や政府系金融機関によるセーフティネット貸付け、中小企業金融円滑化法に基づく返済猶予措置等が進められてきた。
以上が、先の法改正以降の概観である。
法改正から5年が経過した今、現行制度を維持しながらプログラムをさらに推進すべきか、あるいは改正による弊害を除去するために再び法改正に着手すべきかが、議論の俎上にのぼっている。

2 再改正は必要か?
果たして、再改正は必要なのか。この答えを導くには、
@ 法改正によって懸念されていた“副作用”は現実化しているのか?
A 法改正前の社会状況が法改正によってどのように変わったのか?
の2点を冷静に分析する必要がある。
懸念されていた“副作用”とは、「ヤミ金被害の増加」と「信用収縮」の2点である。
2‐1 「ヤミ金被害」は増えたのか?
この内、「ヤミ金被害」については、平成15年の被害額が322億3639万円、被害人員が32万1841人、検挙人員が1246人であったのに対し、平成23年には117億5516万円、5万334人、666人といずれも大きく減少している(いずれも警察庁)。また、弁護士会(四谷・神田両相談センターの合計)、金融庁、警察庁、日本貸金業会のいずれの統計によっても、ヤミ金に関する相談件数は法改正前と比べて半減している。
相談件数や被害報告が少ないのは、「ソフトヤミ金」化がその原因であるとの指摘もあるが、暴力的な取立がなかろうとも「平均値で2269%、中央値で913%」(堂下浩「ヤミ金融の被害についての簡潔な報告」)と集計される暴利を返済し続けることは不可能であり、返済に窮したヤミ金利用者がいずれかの相談窓口にたどり着くのは必然であるから、この指摘は説得力を欠くものと言わざるを得ない。
2‐2 「信用収縮」が起きているのか?
また、「信用収縮」については、個人と中小企業のそれぞれの資金需要について検証する必要がある。
個人については、平成23年のサラ金利用者が1363万人と法改正前からさほど減っていないが、その中身を分析すると、「5件以上借入れ」が44万人と約5分の1まで減少している一方、「借入件数1件」が492万人から794万人へと増加しており、過剰与信を防止しながらも必要な資金需要には積極的に応えていることを窺うことができる。このことから、法改正後の消費者信用市場は、「返済能力がある人に貸せなくなった」のではなく、「貸し過ぎが減った」のであり、健全な姿へ進行していると指摘できよう。
一方、中小企業の資金需要については、確かに多くの中小企業が資金繰りの悪化に喘いでいるのが現状ではあるが、商工会議所の調査によれば、「法改正の影響」がその原因と考えられる事案は全体の1%にも満たず、80%を超える大多数が本業の不振を原因とするものであるから、ここでも法改正と信用収縮との間に因果関係はみられない。
さらに貸金業法では、事業資金に関していわゆる総量規制の「例外貸付け」を認めているが、総量規制導入後の「例外貸付け」は微増ないしは横ばい状態であり、日本信用情報機構に登録された本年4月時点の貸付件数は20万4695件、貸付残高は1725億円と信用収縮は起きていない。信用収縮どころか、総量規制導入により貸付先や1人当たりの貸付可能額が減少した貸金業者の多くは事業資金に関する「例外貸付け」に力を入れており、各社のホームページからはさらなる資金需要の喚起に躍起になっている状況が垣間見えるほどである。
もっとも、72.8%もの中小企業が欠損法人(国税庁)という事実の下では、年利10数%での貸金業者による「例外貸付け」によって生き返ることのできる企業はわずかであり、「例外貸付け」は延命措置にすぎないことは明白である。したがって、中小企業の資金需要対策は、貸金業法の改正という手段によって解決が図られる問題ではなく、新たな低利での融資制度を設けなければ治癒されないだろう(個人的には、淘汰されるべき企業は早期に淘汰されることもやむなしとする「非情」も必要ではないかと考える)。
2‐3 立法事実は存在しない
そのうえ、平成23年の自己破産者は10万人(司法統計年報)、経済苦による年間の自殺者は998人(警察庁生活安全局)といずれも法改正当時から改善されている状況に鑑みれば、もはや再度の法改正を必要とする立法事実は存在せず、むしろこの5年間の政策をさらに推進するべきであるという結論が、自ずと導かれよう。

3 再改正は必要か?
にもかかわらず、自民党の「小口金融市場に関する小委員会」は、本年5月23日付けで「利息制限法等改正案のあらまし(事務局案)」を取りまとめた。その中身は以下のとおりである。
@ 利息制限法の上限金利と出資法の上限金利を同一としたうえで、年利30%を上限の目途とする変動金利制(銀行間取引金利+25%とし、6ヵ月ごとに政令で定める)を導入する。
A 総量規制を撤廃する。
B クレジット・カウンセリングの強化
☛ 現状の返済困難者を、A)収入減少・途絶による者、B)金銭管理能力が未熟な者、の2タイプに分けた上で、法的債務整理による場合には、タイプA)では整理後の生活・事業再建が困難、タイプB)ではヤミ金被害に遭う、との弊害をそれぞれ指摘した上で、タイプA)については「返済条件の緩和などで貸し手が救済の役割を果た」すために貸金業会のカウンセリング機関が再建型プランを提供し、相談者を継続的に支援することを、タイプB)については「行政が対応に当たるべき」であることをそれぞれ提案し、法的債務整理以外の方法によるカウンセリング強化を提言している。
C ヤミ金の摘発強化と適正業者の育成
また、民主党においても、党内における取りまとめには至っていないものの、「中小企業の短期資金需要に応える」ための特例金利(年30%。ただし、最長半年間と期間を限定)を設けるとともに、総量規制を撤廃する改正案が党内の有力な意見として提言されている。
自民党案のCは、法改正以降継続して進められているプログラムと抵触するものではない。しかし、繰り返し指摘するが、自民党案のその他についてこれらを必要とする立法事実は存在しない。また、民主党案についても、中小企業対策が喫緊の課題であることは首肯するとしても、中小企業の置かれている現状は、金利をより高い方向へ振ることにより資金需要に応える方法では、根本的な解決を図ることはできないのである。

4 新たな闘いへ!
自民・民主両党内における再改正を求める声は、実は法改正直後から聞こえていたのは事実である。
しかし、弁護士会も司法書士会も被連協も労福協も、まともに取り合っていなかったと言ってよい。むしろ、プログラムの徹底的な推進と実務における膨大な事務処理にエネルギーが注がれていたし、長い闘いによって勝ち取られた成果が簡単に後戻りするとは到底考えていなかった。
しかしこの間、わが世の春から赤字経営に転落した貸金業者は、文字どおり生き残りをかけ、私たちの“隙”をついた政界工作を徹底的に行っていたのだろう。私たちは、あの闘いに勝利することで新たなスタートを切ったはずだったのに、足元を丁寧に踏み固めることが足りなかったのではないかと感じさせられる。
今回の集会に参加して印象に残ったことは、5年前の運動のときに多重債務問題を冷静に理解し、私たちの闘いをずっと後押ししてくれた議員のほとんどが、集会に足を運んでいないという事実だ。私たちはもういちどあの闘いの原点に立ち返り、一人ひとりの議員に丁寧な説明を行うと共に、現場の声を伝え続ける活動を行わなければならない。
「業界エゴによる“巻き返し”は許してはならない!」新たな決意を抱いた集会であった。

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