債権回収B 債権の保全と「動産譲渡登記」の活用費用について

動産譲渡登記の活用

■ はじめに
一般に融資といえば「不動産担保」が一般的でしょうが、バブル崩壊以降次第に注目を集めてきたのが、今回ご紹介する「動産担保融資」です。工場内に設置された機械器具や倉庫内の在庫等、企業が所有する「動産」の資産価値に注目し、これを担保に金融機関や親会社、取引先等から融資実行されるケースは確実に増加しています。九州地方の金融機関が、畜産業を営む会社に対し、同社の所有する牛(家畜)を担保に融資実行したという報道を耳にされた方も多いのではないでしょうか?筆者も昨年、ある会社経営者の方から「関連会社が新しい機械を購入する資金を用立てるに当たり、その機械を担保に取りたい」との相談を受け、対応させて頂きました。
動産担保融資が拡大する背景には、これを支える法律面での環境整備が大きな要因となっています。今回は「動産譲渡登記」の制度をご紹介してみたいと思います。

■ 「登記」とその機能
不動産には、「登記」という大変に優れた制度が備えられています。この「登記」は、実は不動産だけでなく、様々な分野で制度化され活用されています。皆さんに身近なものとしては、株式会社や有限会社、社団・宗教・医療・NPO等の法人に関する所在や名称、代表者等が公示される「商業法人登記」や、判断能力の衰えた高齢者等の財産管理に資することを目的とした「成年後見登記」が挙げられますが、そのほかにも、総トン数20トン以上の日本船舶を対象とする「船舶登記」、林業の全盛期に活用された「立木(りゅうぼく)登記」、ちょっと変わったところでは、夫婦間の財産関係に関する特別の契約を定める「夫婦財産契約登記」なんてものも存在します(もっとも、戦後の活用例は皆無に近いと思われますが・・・)。
話を不動産登記に戻します。不動産登記には、登記記録を通じ「誰の所有物なのか?」「誰のためにいくらの担保に入っているのか?」といった情報を誰もが入手できる“公示”機能や、所有権や抵当権等の権利者として登記記録に記されている者が、第三者に対し、登記記録に記された権利を法的に主張できる“対抗力”という機能が備えられており、いずれも円滑・正確な不動産取引のために多大な寄与を果たしています。

■ 「動産譲渡登記」の制度化
かつて、動産に関しては、不動産のような登記制度が存在しなかったことから、「誰の所有する動産か?」を公的に証明する手段がなく、結果として後述するように、動産担保融資が実務界のニーズに必ずしも合致しない状況が長く続いていました。そこで、次第に注目を集めるようになってきた動産担保融資を法制度からもバックアップするため、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(通称:「動産・債権譲渡特例法」)」が成立し、平成17年10月3日から施行されています。
同法は、登記の持つ公示や対抗力といった機能を、「法人が行う動産の譲渡」に付加した新たな制度です。「動産譲渡登記」を利用することで、担保権者(貸主)は「この動産が、自分のために担保提供されている」旨を、登記記録という公的情報によって明らかにすることができることとなりますので、不動産抵当による融資の場合と同様、担保権者(貸主)の債権保全に資するものとの期待が高まっているのです。

■ 従前の実務
「動産譲渡登記」が創設される以前から、機械器具等を担保に融資を行う例は散見されていました。動産を担保とする融資では、機械器具等の所有者(融資の借主)が、担保物となる動産を自身の手許に留め、これを利用することで収益を上げ、その収益金から返済資金を捻出するのが実務の一般です。
すなわち、新たな機械の購入資金を借り入れる場合、購入した機械をフル活用することで収益力を高め、これによって返済資金を賄うことになるわけですから、機械を担保に差し入れたとしても、担保物である機械それ自体は借主が管理・使用を続け、やむを得ず返済できない事情が生じた際には、貸主が担保物を引き上げ、転売によって得た売却代金等を貸付金の返済に充てることとなります。
しかし、このような要請に応えるための法制度は、かつては存在しませんでした。動産担保の方法としては、民法という法律に「動産質権」という種類の担保物権が規定されていますが、皆さんもご存知のとおり、動産質権では、動産の所有者(借主)が担保物となる動産を質権者(貸主)に引き渡すことが要件とされています。先の例では、融資を受けた借主が機械を貸主に引き渡さなければ、「質権」という担保権としての効力が生じないのです。これでは、借主が機械を活用して収益を上げることができないために、動産を借主の手許に留めておくという実務界の要請には馴染まない制度だったのです。
そこで実務では、「譲渡担保」という契約を締結する方法が広く用いられてきました。ところが譲渡担保は、あくまで動産の所有者(借主)と担保権者(貸主)との間の契約にすぎず、当該動産が担保に差し入れられていることを第三者に広く知らしめる方法がありません。そうすると担保権者(貸主)としては、担保物たる動産の所有者(借主)が、担保権者(貸主)に無断で第三者に当該動産を売却してしまう等の危険と常に隣り合わせの状態を強いられることとなり、債権保全としては不十分であるとの指摘を免れませんでした。このような理由により、譲渡担保契約による融資は、取引先同士あるいは親子会社間等で利用されることはあっても、金融機関が利用することはほとんどなかったのです。

■ 動産譲渡登記の機能
この点、「動産譲渡登記」では「ある動産が、誰から誰に、どのような目的で譲渡されたか」という情報が登記記録として記されます。動産を担保に融資を行った者は、ある動産が譲渡担保契約に基づいて自身の担保に提供されている旨を、登記記録上で明らかにすることができます。
登記記録は、不動産登記における全部事項証明書(いわゆる“謄本”)と同様、誰でも「登記事項概要証明書」あるいは「概要記録事項証明書」の取り寄せをすることで確認ができます。「概要記録事項証明書」は譲渡会社の本店所在地を管轄する法務局で取り寄せることができますが、「登記事項概要証明書」は、成年後見登記に関する証明書と同様、東京法務局だけでの取り扱いとなります(郵送申請は可能)。なお、証明される対象事項は、前者よりも後者のほうが広範となりますのでご注意ください。
このように、単に譲渡担保「契約」を締結するにすぎない場合と異なり、対抗力のある登記制度を活用することにより、動産の所有者(借主)が無断で担保物たる動産を第三者に売却したような場合も、担保権者(貸主)は、売却を受けた当該第三者に対し、担保権を行使して担保物たる動産の引渡しを求めることができるようになり、債権保全の実効性が飛躍的に高まることになるのです。

■ 活用に当たっての留意点
「動産譲渡登記」の対象となる動産には、機械器具等の「個別動産」のほか、在庫のような一定の場所に存在する一定の種類の動産(いわゆる「集合動産」と呼ばれるもので、○○倉庫内に存在する出荷前のビール,××工場内に存在する建築資材等、一定の場所に存在する一定の種類の動産全体をひとつの担保物と捉え、これを構成する中身(個々の動産)は常に入れ替わることが想定されているもの)も含まれます。
ここで問題となるのは、担保物たる動産の特定方法です。登記された動産と実際の物との同一性が確認できない場合、担保としての効力が失われてしまいます。そのため、動産の特定には細心の注意を払う必要があるのです。この点法律は、動産の種類(プレス機・パソコン等、動産の種類を明示する方法により特定)のほか、個別動産については記号番号や型番、製造番号等のシリアルナンバー等による特定を、集合動産については動産の保管場所の所在地(「浜松市*区**町1番の土地上に存在する**工場」のように、具体的な地番または住居表示を明記する必要あり)による特定を最低限の要件とするほか、有益事項として、動産の商品名や保管場所の倉庫名等、動産の特定に資する事項を登記申請人が任意に選択できるようになっています。
また、「動産譲渡登記」には、最長10年とする存続期間が定められています。不動産と違い、動産の場合には物そのものの価値下落が早いため、同じ動産が長期間にわたって担保に取られ続けることは、実務上想定し得ないことがその理由です。したがって、10年を超えて担保に取り続ける必要がある場合、10年の期間経過後に改めて譲渡契約を締結し直し、再度の登記申請を行う必要がある点にご注意ください。
最後に、登記とは離れますが、担保権者(貸主)としてもうひとつ注意しなければならないのは、貸付金が返済されないために担保物を売却等する場面を想定し、転売先が容易に確保できるか否かを十分に検討しておく必要がある点です。不動産のように流通経路が整備されているような担保物ばかりではなく、動産によっては特殊な業界の範囲内でしか価値を有しないものも多数存在します。いざ、回収という場面になって慌てないように、担保取得の際にこのあたりの事情も十分に考慮しておく必要があるわけです。

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