債権回収A 動産売買の先取特権の活用 

Q 当社は商品卸し業を営んでいますが、未収代金の回収方法として、先取特権が法改正によって利用しやすくなったと耳にしました。詳しく教えてください。また、債権管理の視点から、日常業務における留意点があればあわせて教えてください。

■ 動産売買の先取特権
商品卸し業者などが行う継続的売買契約の場合、一定の締日までの代金合計額を、決済日に一括清算するのが通常です。この場合、納品した商品代金の支払いを保全するため、納品業者には「動産売買の先取特権」という担保権が付与されます。抵当権など当事者間の契約によって生じる担保権とは違い、先取特権という権利は、法が定める一定の条件(このケースでは、@動産の売買、A商品の引渡し、B代金の未払い)が存在することにより、法律上当然に発生することに特徴があります。
■ 債権回収への活用 〜 競売の申立て
先取特権を利用した債権回収の方法は、裁判所に「動産競売」を申し立てる方法によります。かつては、「動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書(差押承諾文書)」の提出が動産競売開始のための要件でした。売買契約における「動産の占有者」とは、代金を支払わない取引先自身ですから、差押えへの承諾などおよそ期待できず、正に「絵に描いた餅」の状態でしたが、この点は平成15年の法改正で改善されています。
なお、この方法は、継続的売買契約だけでなく一回的な売買契約にも利用できますが、以下に指摘するとおり、売買の目的動産自体を差押える手続きですので、代金未払いが発生した場合、できる限り早期に着手することが債権回収を実現するポイントとなります。
以下、その活用方法を整理します。
(1)書面の整備
差押えを希望する者は、まず、裁判所に対し「動産競売開始の許可」を申し立てます。平成15年の法改正により、差押承諾文書に代えて「担保権の存在を証する文書」を提出し、@売買契約成立の事実、A商品を引き渡した事実を証明すれば足りることとなりました。取引基本約定書や、個別の売買における注文書、見積書、納品書、受領書、請求書等、複数の書面の組み合わせによる証明も認められます。
取引先が作成した書面はより証明力が高いため、納品のたびごとに受領書への押印等を求めておくことが、回収の局面で大いに役立つこととなります。
(2)商品の特定
裁判所の許可決定を得たら、これを執行官に提出することで強制執行がスタートします。ここで問題となるのが「商品の特定」です。先取特権の効力は、売買契約の対象動産以外には及びません。このため、どの商品が差押えの対象であるかは、申立人である納入業者の側で特定しなければなりません。同じ場所に同種の商品が多数存在する場合、この特定ができないと強制執行は空振りです。
このため、商品ごとに管理番号を付すか、あるいは商品の性質上それが不可能な場合(過去の裁判例では、樽生ビールの特定が争われています)には、一定量を箱詰めしたパッケージに納品書ほか各書面との共通番号を付する等、日頃から意識的に目的物の特定に努めることが求められます。
(3)第三者の占有
取引先から、納品先として貸倉庫等を指定されるケースも多いですが、この場合にも注意が必要です。納品された商品は、倉庫業者等に占有されますが、差押えの対象物を取引先以外の第三者が占有している場合、法改正による代替方法は利用できず、従来どおり、商品を占有する倉庫業者等から差押承諾文書を提出してもらわなければなりません。
日頃からの納品先業者との信頼関係の構築が、このような場面で生かされます。
(4)商品の転売後は?
取引先が代金を支払わないまま、納品した商品を第三者に転売してしまった場合も、まだ回収の余地はあります。転売先が未だ転売代金を支払っていないのであれば、転売先に対する売買代金債権を差押える方法も考えられます(「先取特権の物上代位」と呼ばれます)。
しかしこの場合、転売先が誰かを特定しなければならないほか、「担保権の存在を証する文書」として、転売契約を証する文書の提出が必要です。よってこの方法が奏功するためには、自身が関与しない書面を入手するにつき、転売先の協力が得られるか否かが大きなポイントとなります。
このような局面まで考慮すると、納品された商品の流通経路を把握に加え、場合によっては、主な転売先との“顔つなぎ”が必要となるケースも考えられるでしょう。


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