特商法・割販法@ パチンコ攻略法とクーリング・オフ
パチンコ攻略法と特定商取引法
1 はじめに
昨今、「パチンコ・スロット攻略法」の情報提供サービスをめぐるトラブルが急増している。全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)は、パチンコに関連した詐欺的な犯罪が増加している現状に鑑み、そのホームページ上で「『高設定情報を提供する』等の詐欺にご注意を!」(2005年11月21日)「パチンコ店を舞台とした“サクラ”募集に関する詐欺事件発生について」(2005年3月2日)「パチンコ攻略雑誌等の広告ページにご注意〜高額支払代金請求のトラブル発生〜」(日付なし)等、度重なる注意喚起を行っている。
東京都消費生活総合センターが受け付けた「パチンコ攻略法」に関する相談件数は、2004年度に41件であったのが、2005年度には121件と急増し、以後、2006年度は87件、2007年度は119件、2008年度は12月までの数字で101件とほぼ横ばい状態にある(2009年3月21日付け東京都生活文化スポーツ局報道発表資料)。同局もまた、ホームページ上で「緊急消費者被害情報」として「派遣労働と偽って契約させるケースも・・・」「パチンコ攻略法の勧誘に気をつけて!」「必ず儲かる攻略法はありません」と警鐘を鳴らしている。
さらに2009年4月20日付け 読売新聞では「全日遊連のホームページに掲載されている約30の業者の住所が、警察庁のホームページで公開されている振り込め詐欺の送金先住所と一致した」と報道されており、パチンコやスロットの攻略情報提供業者の背後には、振り込め詐欺グループが存在することも明らかとなっている。
このように、パチンコ攻略法は多くの被害を産み出す深刻な社会問題と化しており、本件も同種の消費者被害事件である。
なお、本稿では特に断りがない場合、平成20年改正特定商取引法及び改正割賦販売法施行前の条文に基づき、論を進めるものとする。
2 事案の概要
依頼者Hは40歳男性のサラリーマン。2008年9月28日、休日出勤中のHは、雑誌で見かけて気になっていた轄U略(仮称)のホームページにアクセスし、「無料攻略情報をご提供します。ご登録頂いた方宛てに折り返し電話連絡の上、資料を送付します」と説明された同社の「無料情報会員」に登録する。翌29日の夕方、Hの携帯電話に、轄U略のWと名乗る男から連絡が入る。内容の説明を求めるHに対しWは、@無料の攻略情報は確率が低い(当社の有料情報であれば確実)、Aアフターサービスも充実している、B週に2〜3回2時間程度通えば必ず収支はプラスになる、C奥さんに小遣いをあげられる、D勝ち過ぎると対策をとられるから、私も行っているが月に20万円位で止めている等の説明をし、Hに「有料情報会員」に入会することを執拗に勧めた。Wは「信用してください。当社は住所も載せている会社ですので訴えられるような事をすれば倒産してしまいます」とも話し、パンフレットの送付と後日の再連絡を告げて電話を切った。
パンフレットは10月1日にH宅へ届いた。パンフレットには無料会員用のパスワードが明記されていたが、同日再び電話を掛けてきたWの話では「無料情報はあくまでも本情報ではなく、確率的に微小」とのことで、Hの目にも何の役にも立ちそうにない情報が掲載されているだけであった。引き続きE1万円をポケットに入れ、1回2時間、週2〜3回ホールへ通えば、月20万円の収入が確実に得られます、F現在会員が約9,000人、ほとんどの人が月の収支をプラスにしている、等のセールストークを並べるWにそそのかされる形で、Hは入会に応じることになる。
契約手続きは大変に簡単であった。翌10月2日、WからFAX送信された「誓約書」なる書面にHが必要事項を記載して返信した後、電話を通じてWに対し、クレジットカード番号と有効期限を伝えただけですべてが完了した。料金は30万円とクレジット手数料が13,500円。その後、Hの下に届いた攻略法とは「指定された機種で指定どおりの打ち方をせよ」という簡単なペーパー1枚だけで、何のことなのかさっぱり分からない代物であった。騙されたことを悟ったHが轄U略に対し解約を申し出るも、Wほかの担当者からは言を左右にされるだけで埒が明かず、10月7日になって司法書士事務所を訪れたのであった。
3 考察
(1)方針の決定
パチンコ攻略法に関連する事件報告は少なくない。過去に報告された主な裁判例は以下のとおりである。
@)東京地判平成17年11月8日(判例時報1941号98頁)・・・断定的判断の提供による取消し
A)名古屋地判平成19年1月29日(日弁連消費者問題ニュース2007年3月号)・・・断定的判断の提供による取消し,不法行為責任
B)大阪地判平成19年11月28日(消費者法ニュース75号288頁)・・・不法行為責任(使用者責任)
C)神戸地尼崎支判平成21年2月27日(判例集未登載)・・・消費者契約法違反,契約全体が社会的相当性を逸脱するとして公序良俗違反により無効
本件も、これらの裁判例と同様に、断定的判断の提供による取消しや不法行為による損害賠償請求の主張が可能と考えられるし、詐欺や不実告知取消しの主張も検討できる事案と考えられるが、本件では、契約金額が30万円と比較的低額であり、できるだけコストをかけない解決方法をHが望んでいた等の理由により、できる限り訴訟外での交渉による解決を模索し、訴訟提起せざるを得ない場合も、立証をいかに克服するかがポイントとなった。
そこで、立証の軽減という観点から、クーリング・オフの主張の可否を検討した。
(2)通信販売か? 電話勧誘販売か?
本件取引が特定商取引法所定の特定商取引に該当するとすれば、「通信販売」(特商2条2項)あるいは「電話勧誘販売」(特商2条3項)のいずれかとなる。ところで、消費者に対する勧誘に電話が用いられている場合では、当該取引が通信販売であるのかあるいは電話勧誘販売であるのかを、外形的に判断するのは容易ではない。特定商取引法は、電話勧誘販売を広義の通信販売の中に位置づけて規定しており、広義の通信販売の中から電話勧誘販売の要件に該当する取引を除いた取引につき、狭義の通信販売として規定している(特商2条2項)。
しかし、両者の法的効果を比較すると、通信販売にはクーリング・オフの適用はないため、本件においてHがクーリング・オフの主張をするためには、本件取引が電話勧誘販売に該当する必要がある。なお、平成20年改正特定商取引法によって創設された通信販売における返品ルール(改正特商15条の2)は、商品や指定権利の販売に関する規定であり、本件のような役務提供契約には適用がない。
一方、本件取引はクレジットカードを利用した取引であることから、総合割賦購入あっせんに該当し、割賦販売法30条の2の3の規定によるクーリング・オフの主張も検討できるが、割賦販売法のクーリング・オフと特定商取引法のクーリング・オフとでは後者が優先適用されるため(割販30条の2の3第8項第1号)、本件でも、先に電話勧誘販売の該当性を検討しなければならない。
ところで、本件でHは、有料情報会員の契約をする前に、雑誌で見た轄U略のホームページにアクセスし、同社の「無料攻略情報」に登録申込みをしているが、轄U略とHとの間の役務提供契約が特定商取引法の適用を受けるためには、その役務が「有償で」提供される場合に限られるので(特商2条1項1号)、「無料攻略情報」の申込みは通信販売にも該当しないし(特商2条2項)、電話勧誘販売にも該当しない(特商2条3項)。よって以下では、轄U略とHとの間の「有料情報会員」に関する役務提供契約(以下、「本件役務提供契約」という)が電話勧誘販売に該当するか否かを検討する。
(3)電話勧誘販売の該当性
ア)要件への当てはめ
電話勧誘販売の適用要件は下記のとおりである(特商2条3項)。
@)当事者に関する要件 販売業者または役務提供業者が購入者等に対し
A)勧誘方法に関する要件 電話をかけまたは政令(特商令2条)で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う勧誘により
B)申込手段に関する要件 郵便等(特商2条2項,特商規則2条)により
C)指定商品制 指定商品・指定権利・指定役務に関して
D)行為に関する要件 申込みを受け、または契約を締結して行う取引
E)適用除外 特定商取引法26条に規定する適用除外に該当しないこと
轄U略の商業登記情報を調査すると、「情報提供サービス」ほかが目的に掲げられており、轄U略がパチンコやスロットの攻略情報を、営利を目的とし反復継続して行っていることが判明する(要件@)。轄U略のWは、9月29日と10月1日の2度にわたってHに電話をかけ、その電話において前掲@乃至Fのセールストークを用いて本件役務提供契約の勧誘を行っている(要件A)。提供される役務の対象はパチンコやスロットの攻略情報であって指定役務に該当し(特商令3条3項別表第3・20「技芸又は知識の教授」,要件C)、Hの契約申込みは「誓約書」なる書面をFAX送信する方法(「郵便等」に該当(特商規則2条2号))により行われている(要件B・D)。
紙面の都合上、個々の適用除外規定(要件E)についての検討は省略するが、本件で問題なるのは、本件役務提供契約が「電話をかけることを請求した者に対して行う電話勧誘販売」(特商26条3項1号)に該当するか否かという点である。この適用除外規定は、“コールバック”と称される規定で、事業者に対し契約をするために自ら電話をかけることを請求した消費者は、電話勧誘販売の特徴である「不意打ち性」が排除されるため、電話勧誘販売の規定を適用しないとする趣旨であり、訪問販売における“来訪要請”(特商26条2項1号)と同趣旨の規定である。
なお、コールバックに該当するため電話勧誘販売の適用が除外される場合も、通信販売の規定が適用されることに注意されたい(特定商取引法26条1項の適用除外規定は、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売に関するすべての規定についてその適用を除外しているが、同条3項の適用除外規定は、通信販売の適用を除外していない)。
イ)コールバックの検討
本件役務提供契約申込みに至るまでの経緯を、時系列に沿って抽出すると、@Hが轄U略の広告を見る、Aホームページへアクセスする(9/28)、Bホームページ上から「無料攻略情報」に登録する(同日)、C轄U略のWから1度目の勧誘電話(9/29)、Dパンフレットが届く(10/1)、EWから2度目の勧誘電話(同日)、F「誓約書」がFAX送信される(10/2)、GFAXを返送する=「有料情報会員」契約申込み(同日)、と整理できる。
WがHに勧誘電話をかけるきっかけとなったのは、HによるBの登録である。Hは轄U略あるいはWに対し、「電話をせよ」との明示的な意思表示はしていないが、Bの登録をした者宛てに轄U略から電話がかかってくることは、ホームページ上の説明でHも承知している。よってBの登録が、「電話をかけさせることを請求した」行為と同視し得るか否かが問題となる。
この点、通達は、訪問販売における来訪要請の規定と比較し「電話の場合は単に問合せ等の目的で消費者側も気軽に販売業者からの電話を請求しがちである。このため『請求』の程度は、『契約の申込み』又は『契約の締結』を明確に表示した場合」等に限られると指摘する。本件でHは、「無料攻略情報」を求めてBの登録をしたにすぎない。Bの登録に乗じて、Wは「有料情報会員」の勧誘を行ったのであり、Hは本件役務提供契約について「『契約の申込み』又は『契約の締結』を明確に表示」していないのであるから、コールバックに該当しない。
ウ)クーリング・オフの除外規定
以上による検討の結果、本件役務提供契約は電話勧誘販売に該当することが判明する。最後に、本件役務提供契約がクーリング・オフの適用除外規定(特商24条,特商令4条乃至6条)に該当するか否かを検討しなければならないが、本件でHは、契約締結から5日後に司法書士事務所を訪れているので、未だクーリング・オフの行使可能期間内であるし、その他の適用除外規定にも該当しない。
また、仮にクーリング・オフ期間が経過していたとしても、本件のようなパチンコやスロットの攻略情報提供を業とするような会社は、特定商取引法が規定する申込書面(特商18条)や契約書面(特商19条)を交付しているケースはほとんどないため、いずれのケースでも、クーリング・オフ期間は進行していないと解することが可能であろう。本件でも、Hが轄U略から交付を受けた書面は、「誓約書」のほかに「無料攻略情報」が記載されたパンフレット、有料の攻略法が記されたペーパーだけであり、そのいずれも記載事項を完備した書面ではなかった。
(4)まとめ
本件は、平成20年改正割賦販売法の積み残しと指摘されるいわゆる決済代行会社を介した“越境型”のカード取引であるが、紙面の都合上、この点についての論点は省略する。本件の顛末は、轄U略へのクーリング・オフ、クレジット会社への抗弁対抗(割販30条の4)の各通知送付後、「リファンド」により訴訟外での解決が図られたものである(カード決済に関する詳細は、小楠展央ほか『悪質商法被害救済の実務』52頁以下を参照)。
「パチンコ・スロット攻略法」による潜在的被害者は、冒頭の数字を大きく上回っていることが容易に予測される。契約申込みに至る経緯に差異はあるが、丁寧に法の要件への当てはめを行うことで、その多くが本件の検討結果と同様にクーリング・オフでの解決が可能となるものと考える。110番活動等を通じた被害の掘り起こしが必要であると感じる分野である。