貸金業法再改正をめぐる動向A

院内集会「改正貸金業法の成果と課題を検討する」
〜自殺対策、多重債務、円滑化法の出口戦略と世界の金利規制〜

                                                相談事業部長  中 里  功
■ 法改正をめぐる経緯 ■
2月21日(木)12時より、衆議院第二議員会館内において表記集会が開催された(日弁連が主催し、労福協・日司連が共催)。貸金業法改正に関する院内集会としては、今年度2度目の開催である。前回の開催は、与野党の一部議員グループが特例金利の導入や総量規制の見直し等を内容とする改正案をまとめて間もない頃のことであり、「後戻りは許さない」という強い緊迫感の中での開催であった。もっとも、改正案の内容はおよそ立法事実を伴わず説得力を欠くものであったことは、本誌に寄稿した前回の集会報告で明らかにしたところである。
その後の衆議院総選挙、政権交代の経緯の中で、改正に向けた動きは自然消滅した気配もあるが、改正推進論者の大きな拠り所の一つに、現行の貸金業法では、間もなく迎える金融円滑化法期限切れ後の中小零細事業者からの資金需要に応えられない旨が指摘されていたことから、今回の集会では、貸金業法に頼らない円滑化法の出口戦略についても検討された。もっとも、大門実紀史参議院議員(共産)が指摘していたとおり、円滑化法期限切れと上限金利の問題は全くの別物であり、これを関連付けてあたかも「事業資金の受け皿確保のため、貸金業者が貸し付けできる環境整備を!」と唱える改正推進論者の主張に引きずられ過ぎることは危険である。改正運動の勝者であり、改正後の動向を現場で見続けてきた私たちは、具体的な数字に基づく改正の成果を堂々と訴えるとともに、残された課題の克服に向けて一層の奮起を続けていくのが本道であるはずだ。
■ 改正貸金業法の成果 ■
では、その成果とは何か?5社以上の借入のある者が改正前の230万人から40万人以下に減少したり、破産者数やヤミ金相談が大きく減少したりしたことは改正の成果としてしばしば指摘されるが、本集会ではその成果が、自殺者の減少という貸金業法とは必ずしも直接的な関係をもたない社会現象にまで表れていることが指摘された。
2012年度の速報値では、1997年以来15年ぶりに自殺者が3万人を下回るとのこと。また特筆すべきはその減少率が過去最大となる見込みであることだ。多重債務を原因とする自殺件数も2007年の1973件から2011年には998人に半減している。無論、その要因が貸金業法改正だけにあるのではなく、自殺総合対策大綱を閣議決定し様々な観点から自殺防止政策が進められたこと、厚生労働省が主導する「よりそいホットライン」が全国的に機能していること等も相まっての効果ではある。しかし、高金利がさまざまな社会問題の要因となっていることは、当時日司連が主催したシンポジウムでも明らかにした事実であり、その社会問題であった自殺が改正後の数年間で大きく減少したことは、私たちの運動の方向性や主張の根幹が誤っていなかったことの証左であろう。
■ 残された課題 ■
一方、残された課題も少なくない。
最大の課題は、「多重債務問題改善プログラム」の骨子の一つでもあった「セーフティーネット貸付け」の整備であろう。信用情報機関への事故情報掲載数は400万件とも言われており、これらの世帯に対して貸金業者に頼らない生活再建資金が提供される仕組み作りは急務である。この点、すでに政府内では家計再建ローンの制度化に向けた検討機関が立ちあがっているとのことであり、今後の動向に注目を要する。
また、多重債務被害は解消されつつあるものの、その背景にあった「貧困」の問題は、改正から5年以上を経過した今もなお厳然と存在している。仮にこの「貧困」に、従前の貸金業のような仕組みがかぶせられれば、たちまち多重債務社会に後戻りしかねない状況にある。現に九州では、質屋に認められた年109.5%の特例高金利に注目し、質草としては何の価値もない物品を形式的に質に取る「偽装質屋」の問題が広まっており、これが東京をはじめとする関東圏にも進出しているとの報告もなされていた(なお、偽装質屋のように無価値の物品を質草として金銭を貸し付ける手口は質屋営業の範囲を超えるものであり、年109.5%の特例金利は適用されない(大阪高判昭和27年6月23日))。
■ 雑感 ■
長きにわたりクレサラ運動を牽引してきた大阪の木村達也弁護士がしばしば指摘するように、私たちの運動は多重債務問題から貧困問題へとステージを移している。多重債務問題には貸金業者という明確な「敵」がいたが、貧困問題は社会そのものの変革を求める運動であり、私たちはより困難な闘いを強いられることが明らかである。しかし、困難であればこそ、多重債務被害の実情を肌で体験してきた司法書士界全体が一丸となって協力していく必要があるのではないか。そんな感想を抱かせる集会であった。

それにしては、司法書士の顔ぶれが平成19年改正当時とまったく変わっていないことに強く危惧している・・・

 

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