過払金の返還@ 〜 法改正前の少し古い情報ですが・・

@ 本人支援型訴訟と簡裁代理権
不動産業者の皆様にとって、「司法書士」といえば「不動産登記」「商業・法人登記」という印象が強いことでしょうが、これ以外にも私たちの職務の重要な柱となるものに「裁判所に提出する書類の作成」業務が上げられます。「裁判所」といえばまず「弁護士」を思い浮かべることでしょう。弁護士には法律事務全般に関する包括的な代理権が認められている一方、私たち司法書士には、現状ではこのような代理権が認められていないため、裁判の当事者に代わって実際に法廷に立ったり、相手方当事者と示談交渉をしたりすることについては法律上の制限を受けています(弁護士法72条・司法書士法10条)。しかしながら現実には「訴訟費用の用意ができない」といった経済的理由外から、数多くの法的トラブルに関する相談が私たち司法書士の事務所にも寄せられています。私たちは「書類作成業務」の範囲内で、でき得る限りの裁判手段を駆使して相談者の抱える問題を解決する一助を続けており、このような、司法書士の作成した書類に基づき当事者自身が手続を進める裁判形態のことを「本人支援型訴訟」と呼んでいるのです。
一方、去る平成14年4月24日、司法書士法の一部が改正され、簡易裁判所の事物管轄に属する事件(訴額が90万円以下の事件のことをいいます)に限り、私たち司法書士にも弁護士同様の代理権が付与されることとなりました(「簡裁代理権」と呼んでいます)。法改正により、90万円以下のトラブルについては、従来の「本人支援型訴訟」に加え「代理型訴訟」の選択も可能となり、弁護士同様の問題解決のためのメニューが用意されることとなります。よって今後の司法書士にとっては、ますます裁判事務の分野での活躍が重要視されるようになってくるものと感じております。なお、改正法の施行は平成15年4月1日で、実際には同年夏頃に予定されている特別研修の受講とその後に行われる効果測定の結果を経て簡裁代理権が付与されることになりますので、代理業務が可能となるのは来年の秋頃を予定しているようです。

A 多重債務問題
さて、実際の相談案件をみてみると、一般市民の皆さんが抱えている金銭にまつわるトラブルが多数を占め、貸金返還・滞納家賃の回収と家屋の明渡し・アパート明渡しに伴う敷金の返還・給料の未払い・悪質商法被害など多岐にわたりますが、その中でもいわゆる「多重債務問題」に関する相談件数が圧倒的に多く、この問題に関しては司法書士会全体としても重要課題と考え力を入れた対応を続けています。
多重債務問題は年々深刻化しており、それは全国の破産申立件数の急激な増加からも窺い知ることができます(【表1】なお、2001年は約16万件。2002年もその1.5倍程度で推移しているようです)。破産申立に関しては、いわゆるモラルハザードの問題として「借り逃げ」等の批判が従来から続いているところでありますが、日弁連消費者問題対策委員会が実施した「2000年破産記録全国調査」によれば、圧倒的に生活苦を原因とする借入れが多くなっており【表2】、ギャンブルや遊興費を原因とするいわゆる「浪費型」の破産件数は極めて少ないことが分かります。慢性的生活苦によるぎりぎりの生活を強いられる中、子供の出産・病気・進学、御主人の減給やリストラ、予期せぬ事故などによる急な出費等に対応できず、やむなく借金に頼っているとの現実を窺い知ることができます。このようないわゆる低所得者層は、景気の良し悪しの変動すら受けることのない層であると考えることができるでしょうから、どんなに経済状況が好転しようと多重債務問題がなくなることはあり得ないものと断言できます。
一方でここ1〜2年に相談を受けていて感じることは、個人事業主や会社経営者などによる事業型の破産が増加していることです。このタイプはまさに長引く不況の影響を受けているものであり、中小零細事業所が深刻な経営難に置かれている事態を痛感させられます。不動産業者の皆様においても、借金清算のために不動産を売却せざるを得ない事例が非常に増えてきていることを実感されていらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこのたび、4回にわたり貴重な紙面をお借りする機会を得ましたので、多重債務問題をめぐる現状や実務上の問題点について、各種の法的解決策を紹介しながら連載していきたいと考えています。1回目の今回は、やや総論的な話になりますが金利の問題についてまとめてみました。次回以降は特に不動産の絡んだ事案を紹介しながら、実務上の問題点などについて触れてみたいと思っています。

B「払わなくていい利息」
日本には「利息制限法」という法律があり、お金の貸し借りについては上限金利が以下のとおり定められています。

  1. 10万円未満の貸付                年20%
  2. 10万円以上100万円未満の貸付  年18%
  3. 100万円以上の貸付        年15%

利息制限法はたった4つの条文から構成される短い法律ですが、いわば金利に関する憲法ともいうべき重要な法律であると位置付けられており、その趣旨は、「高利金融に対し、経済的弱者の地位にある借主を保護すること」であるとされています。
利息制限法1条は上限金利を超えた部分について「無効」すなわち債権債務の存在を否定すると定め、借主保護の立場を徹底しています。また最高裁判所の見解も借主保護を貫いており、利息制限法の上限金利を超える部分の債務は「法律上存在しない債務」であるという立場をとっています(最高裁昭和39年11月18日判決)。存在しない債務・存在しない利息である以上、当然借主は支払いをする義務もないのであり「払わなくていい利息」となるわけです。

C「グレーゾーン」の存在
一方、金利については「グレーゾーン」という言葉を耳にされたことがある方も多いと思います。利息制限法は、先にも述べたとおり金利に関する憲法で違反は絶対に許されないわけですが、この法律には罰則規定が存在しません。一方で我が国には「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(以下、「出資法」)という法律があり、年29.2%(日歩8銭)を超える金利で貸付を行なった場合には、懲役・罰金といった刑事罰に処せられることとなっております。すなわち、利息制限法の上限金利(20,18,15%)と出資法の上限金利(29.2%)の間の利率による貸付は、民事上は違法であるが刑事罰は課せられない範囲となり、しばしば金利の「グレーゾーン」という表現が用いられています【表3】。
サラ金・商工ローンの融資やクレジット会社によるキャッシング(以下、「貸金業者」と総称します)の金利は、概ねこのグレーゾーンの範囲内で行なわれております。利息制限法違反であるはずの貸金業者の営業方法が容認される根拠は、「貸金業の規制等に関する法律」(以下、「貸金業規正法」)という法律にあります。この法律の43条は「みなし弁済」規定と呼ばれており、サラ金・商工ローンやクレジット会社などの貸金業者が行なう貸付のうち、同条に定められた大変に細かい要件(Dに列挙)をすべて兼ね備えた貸付についてだけは、グレーゾーン部分の支払いを有効なものとする旨が定められているのです。
つまり、グレーゾーン部分は、本来は利息制限法に違反する無効な部分であって借主は支払いの義務を負わないことになるのですが、貸金業規正法43条の要件を充足した支払いだけは法律上有効な支払いとみなされることとなり、結果として貸金業者が利息制限法の上限金利を超えた返済を受けられるという仕組みが成り立っているのです。

D「みなし弁済」は成立しない
貸金業規正法43条では、グレーゾーン部分の支払いが有効とみなされるための要件として次の5つが掲げられています。

  1. 貸主が貸金業登録を受けている業者であること
  2. 契約の際、貸金業規正法17条の要件を充足する書面を交付していること
  3. 支払いの都度、直ちに、貸金業規正法18条の要件を充足する領収書を交付していること
  4. 借主が、支払い金額の内いくらが「利息」いくらが「元金」の支払いであるかを認識して支払っていること
  5. 借主がグレーゾーン部分の利息を「自分の意思」で支払っていること

A・Bの要件に関しては、法律上記載されていなければならない事項が大変に事細かく列挙されております。この点裁判所の見解は「みなし弁済規定は貸付における厳格な手続の履践を要求したうえで、右厳格な手続を履践した業者につき法43条1項の要件を具備することにより、本来あくまでも利息制限法には無効な弁済を、例外的に有効な弁済とみなすという特典を与えたものと解すべき(東京高裁平成9年11月13日判決)」という表現をしており、たったひとつの記載事項に漏れや不備があった場合であっても、それだけで「みなし弁済」は否定されることになります。
C・Dは「支払いの任意性」と呼ばれる要件です。利息制限法に違反する無効な金利を「借主が任意に支払った」ことは貸主である貸金業者において立証しなければならないことになっていますが、債務者の内心についての立証は困難を極めます。
実際、「みなし弁済」の成否が争われた膨大な裁判例が存在しますが、そのほとんどが貸金業者の主張を退け、「みなし弁済」の成立を否定しています。

E 過払金返還訴訟
「みなし弁済」が成立しない以上、利息制限法所定の利率を超える利息の支払いはすべて無効となり、超過利息分は自動的に元金の支払いに充当されることになります。借主が毎月の返済をする都度、この充当作業が繰り返されることになり、取引形態にもよりますが、1社との取引が概ね5〜6年継続していれば支払うべき元金は「0」となってしまいます。そこから先の返済はまさに「払わなくていい利息」に該当することになり、事実、私の相談者の中にも払いすぎた利息を取り戻す裁判(「過払金返還訴訟」といいます)によって貸金業者からお金を取り返すことができた方が何人もおります。
ある新聞記者から伺った話です。その方が大手の幹部社員を取材した時の回答で「自分達の営業方法では「みなし弁済」の要件をクリアできていないことは分かっている。でも、あえて高い経費をかけてまで要件を兼ね備えるようなシステムを取ることなどまったく考えていない。そんなことをしなくても債務者は真面目に高い金利を払ってくれる」とのこと。つまり貸金業者のほとんどは、自社の貸付には「みなし弁済」が成立せず、違法な金利を債務者から受け取っているということを認識していることになり、そのために過払金返還訴訟においても「みなし弁済」を主張する業者はほとんどありません。

F 貸手責任
昨今の貸金業者の営業成績には目をみはるものがあります。自動契約機の濫立や昼夜を問わず流れるテレビコマーシャルが問題視された時期もありますが、最近ではプロスポーツ業界に進出するほど社会的認知度も高まっており、一昔前のいわゆる「サラ金地獄」の面影は表面上はまったく見られないようになりました。ある大手サラ金業者を例にとると、今や東証一部上場、2000年3月期の経常利益は2039億円にものぼる一大企業となっていますし、社長の個人資産9,960億円は世界第37位に位置しているそうです(「Forbes日本版2001年10月号」による)。
「借りたものは返す」・・・お互いの当事者が法を遵守した対等の関係であれば、これももっともなことでしょう。しかし貸金業者の利益の多くが債務者から受け取った「払わなくていい利息」によって占められている現状においては、借手側の責任だけが問われるべきではなく、貸手側の責任もまた問われなければならないものと考えております。そして何より、困窮状態にある方をそのまま放置しておくことにより、多重債務被害は親・兄弟・親族・友人と本来無関係の方を巻き込んでいくことにもつながりますから、一刻も早い法的対応が必要であるものと考えております。

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