10年の節目に 〜 静大ガイダンスで司法書士を志す学生さんに話をしました

10年間の司法書士日記

平成8年に試験合格した私は、研修期間を経て平成10年2月に独立開業した。この10年間、自分で言うのも何だが激動の日々を休むことなく走り続けてきた気がする。司法書士を目指す受験生の皆さん、あるいは司法書士に関心を示される皆さんに対し、「合格は無限の可能性を掴み取る」ことなのだと感じてもらいたいという気持ちで、私の10年間を振り返ることにする。

1 合格〜研修突入
合格は平成8年。当時はまだ合格者も少なく、年内には研修受入先が決まった。平成9年のまる1年間お世話になった研修先は、静岡市内にある登記専門の中堅規模の事務所。ここでみっちり登記実務を叩き込まれた。並行して休日や夜間には青司協の勉強会にも出席し、まったく未知の世界であったクレサラ問題を手探りで勉強していた頃である。
2 消費者契約法の成立
平成10年2月に開業後、最初に取り組んだテーマは消費者契約法。2年後の成立を目指し、国生審が中間報告を取りまとめた時期であり、「いかに実務で役立てるか」をテーマに勉強会を重ねた。翌年1月の全青司・消費者問題シンポジウムでは分科会を担当、全国規模の研修会で登壇するのはこれが初めての事であった。
3 戦闘モード 商工ローン
「商工ローン」という言葉が社会を賑わし始めたのも平成10年秋のこと。“新しい敵”に対する法的武装と被害者救済のノウハウ確立を目指し、クレサラ問題を手掛ける浜松市内の青司協メンバーと勉強会を始めた。あるメンバーの「中里君、仕事もなくて暇でしょ?」の一言で座長に就任。半年間の勉強会の成果は、翌11年7月「戦闘モード 商工ローン」として書籍化される。
商工ローン問題は、「戦闘モード」発刊直後に勃発した「腎臓売れ!目ん玉売れ!!」の日栄事件を契機にたちまち社会問題化。自費出版の同書に同職からはもちろんのこと、弁護士・商工団体等からも注文が殺到した。その後1年ほどの間は、「戦闘モード」を片手に全国の研修会に講師行脚に出かけることが続いた。
実務でも、数件の事件を手掛けることができ、大きな自信を身に付けることができた。チャンスを与えてくれたメンバーらには、今でも大変に感謝している。
4 個人再生スタート
平成12年暮れから13年にかけては、個人再生の勉強にエネルギーを注いだ。13年4月のスタートを控え、「司法書士が個人再生の担い手となるんだ」という意気込みに溢れた勉強会が続いた。また、当時務めていた全青司・消費者問題対策委員としても全国規模の研修会を企画・立案し、再生手続を実務へ浸透させることにも尽力。再生一色の時期であった。
5 債務者一揆
平成13年はこれ。利息制限法・貸金業規制法に違反する高金利・過剰融資のため、長年にわたり返済地獄を歩んできた多重債務者にとって、過払い金返還訴訟は自身の正当な権利行使の手段である。過払い訴訟の「集団提訴」はまさに現代版一揆であった。
全国クレサラキャラバン活動の一環として県内で行った一斉提訴では、私の依頼人3名が実に650万円の過払い金を回収した。実務面だけでなく、キャラバン活動の一環として街頭演説や街頭署名などを重ねながら、法律家としての社会運動参加の意義を学んだ。
集団訴訟に前後する一連の勉強・実務の成果は、翌14年7月に出版された「簡裁クレサラ訴訟の実務」(共著,民事法研究会)によって集大成される。脱稿までの3ヶ月ほどは、執筆活動に明け暮れる毎日だった。
6 簡裁代理権
平成15年7月、いよいよ簡裁代理権が現実化した。裁判事務と言えば、クレサラ事件がほとんどであった私の事務所も、代理権取得後は少しずつ民事一般事件の受任が増えてきた。代理権取得後の青司協での合言葉は「超多忙」。一般市民の法的ニーズはそれだけ膨大で、司法書士に負託された責務はそれだけ重い。
7 消費者問題
平成15年は他にもいろいろなことがあった。消費者法ニュースの編集責任者を拝命したのもこの時期。年4回発行される同誌は、あらゆる消費者問題の最新情報が網羅される貴庁な法律誌である。定期購読料6000円とリーズナブルでもあり、学生の皆さんにもお勧めしたい。
国生審が21世紀型の消費者政策のあり方についての最終報告をまとめたのもこの年の5月。これを受け、7月には法律時報が企画した座談会「消費者法の今日的課題」(同誌2003年9月号)に招かれ、当時の日弁連消費者委員長、国民生活センター相談部室長、学者2名のメンバーで今後の消費者法を論じた。
8 執筆・編集と会社法
平成16年から平成17年は執筆・編集に明け暮れた。先述「簡裁クレサラ訴訟の実務」の改訂版として「簡裁消費者訴訟の実務」を、代理権取得を受け、広く一般民事事件受任を啓蒙する趣旨で「実践 簡裁民事訴訟」を続けて出版した(いずれも共著,民事法研究会)。
平成17年以降は、会社法が施行される平成18年5月に向けた情報収集と実務への対応にも追われた。
9 金利引き下げ運動
時を前後して平成15年4月、日司連の消費者法制検討委員に就任。担当は金利問題。出資法改正(本年12月予定)に向け、金利自由化を画策する貸金業界のお抱え学者が発表した論文に対し、委員会メンバーで「上限金利撤廃の弊害と引下げの必要性」をまとめた。翌16年から本年までは、金利引き下げ運動に奔走。シンポジウムや政治家を招いたタウンミーティングの企画・運営,パンフレットや意見書の作成,地方議会への要請や国会陳情,全国各地で開催される集会やデモ行進への参加,全国キャラバン活動に伴う該当署名活動。弁護士会を中心とした運動の輪は、市民・マスコミ・消費者団体・労働団体へと大きな広がりを見せた。
その成果は、今臨時国会で結実しようとしている。ひたむきな運動が持つパワーとエネルギー、そして運動を継続する重要性を、身をもって体感できた。
10 今後の課題
今後の課題も山積みだ。当面、静岡青司協が平成19年7月に主管する全青司関東ブロック研修会にエネルギーを注ぐことになる。リーガルネゴシエーション(法的交渉術)と立証の実務に焦点を当てた研修会である。日司連では、割賦販売法改正運動が既に始まっているし、今後のテーマとして過剰与信の研究も始まろうとしている。
実は、私に与えられたテーマは「司法書士の未来像」であった。しかし、目の前の課題にひとつひとつ全力で取り組むことで、未来は自然と輝きを増すとの確信の下、私の10年間を振り返ってみた。今後も、この姿勢を変えることなく、司法書士を続けていくことだろう。
皆さんも、輝ける未来のために、“今”に全力でチャレンジして下さい!!

原稿一覧

司法書士法人浜松総合事務所

〒431−3125
静岡県浜松市東区半田山5丁目39番24号
TEL 053−432−4525
マップ