貸したお金を回収したい〜少額訴訟の利用

T.「貸金請求事件」

事 例
静岡市内に住む会社員長島さんは、昨年(平成10年)1月に20年ぶりに開かれた中学校の同窓会に出席しました。その席で、同じクラスで一緒に遊んだ中畑さんと再会し、昔話しに花が咲き、それから付き合いが始まりました。
そして、昨年(平成10年)9月下旬に中畑さんから「どうしてもお金が必要なので20万円貸してもらえないか、年末には必ず返すから」と懇願され、中畑さんがたいへん困っているように見えたので念書をもらって平成10年10月1日に20万円を渡しました。
しかし、年が明けても中畑さんは返済してくれません。電話で催促をしても不在や居留守を使い、交渉にも応じてくれません。
そこで、長島さんは「平成11年2月19日までに支払え」という内容証明郵便を中畑さんに出しましたが、全然連絡がありません。
長島さんは、どうしたらよいのでしょうか?

1.貸金請求事件
少額訴訟が利用出来る要件の一つに「請求金額が30万円以下の金銭を請求する訴訟に限る。」があります。これに該当するのが事例の友人や知人に20万円を貸したけど返ってこないというものです。少額訴訟に馴染みやすい事件ではないでしょうか。

2.注意点

@ 管 轄 〜 どこの簡易裁判所に訴状を提出すればいいのでしょう?

義務履行地
を管轄する簡易裁判所へ






貸主に有利

貸金請求事件の場合、貸したお金を返すべき場所(=義務履行地)を管轄する簡易裁判所に訴状を提出できます。
通常、お金を貸した時に支払場所についてまで約束を交わすなんてことはほとんどないでしょう。支払場所について何も約束していない場合、法律上、借主は貸主が現在居住している場所へ出向いて支払う必要があります(民法・484)。
すなわち、義務履行地は貸主である長島さんの現在の居住地となりますから、長島さんは自分の居住地を管轄する静岡簡易裁判所に訴状を提出すればいいのです。
一般に、貸金請求事件では貸主の住所地で裁判ができますから、裁判のために遠隔地に出向くような必要はありません。

A 請求金額 〜 金額はいくら請求できるのでしょう?

元金+利息
+遅延損害金




利 息

・遅延損害金は何%?






遅延損害金は

いつから
いつまで?

訴状で請求できる金額は、貸主が本来受け取ることができるはずの金額となります。
この本来受け取るべき金額の中には、貸し与えた金額(=元金)だけではなく、元金に対する利息や、約束どおりの支払いがなされなかった場合に発生する遅延損害金も当然に含まれます。

お金を貸した際、利息や遅延損害金について具体的な約束を交わしている場合、約束どおりの利息・遅延損害金を元金にプラスして請求できます(但し、10万円以下の上限利率は20%・100万円以下は18%、遅延損害金はこの倍となっていますから、これ以上の金額は請求できません(利息制限法1・4))。
ではお金を貸した際に、何の約束も交わしていない場合はどうでしょう。このような場合、法律上は利息も遅延損害金も請求することはができません(民法・404)。

遅延損害金は、借主が支払日を指定されたにもかかわらずこの日に支払いをしなかった場合に、指定された支払日の翌日から発生します。
貸主は借主が支払いを終えるまで、遅延損害金を請求できます。
長島さんは内容証明郵便中に支払日を平成11年2月19日と指定しましたから、2月20日から中畑さんが支払いを終える日まで遅延損害金が請求できるのです。

 

B 証 拠 〜 裁判に勝つためには、何が必要でしょうか?

立証責任
 の負担がある

 

 

 証 拠 
はできる限り
提出しよう

 

 

 

 

 

証拠が何もないときは?

 

 

 

 

訴訟の前に証拠を作る!

 

 

 

裁判に勝つためには、「お金を貸した」という事実「弁済期が過ぎている」という事実の2点につき、裁判所に証拠を提出して証明をしなければなりません。これを立証責任と呼び、貸主側でこの2点についての十分な証明ができない場合には、せっかく少額訴訟を提訴しても裁判に負けてしまうことになりますから、証拠として提出できるものがあるのかどうかは、裁判に訴えるかどうかの重要なポイントになります。
具体的には以下のようなものが残っていると、決定的な証拠となるといえるでしょう。
借用書・契約書・念書 等
このような資料が何もないような場合でも、訴訟をあきらめる必要はありません。お金の受け渡しに立ち会ってくれた人がいれば、その人に協力を求めて証人として一緒に裁判所に出頭してもらうこともできますし、出頭が無理ならば受け渡し当時の借主の状況・受け渡しの際の様子などを「陳述書」という書面にまとめ、これを証拠として裁判所に提出することも考えられます。
さらに銀行振込での返済を約束していれば、預金通帳なんかも証拠となります。考えられる限りの証拠を提出し、訴訟を有利に進行させたいものです。
では、証拠になるようなものが何もない場合にどうしたらいいでしょう?何の証拠もなくいきなり訴訟に持ち込む、というのはお勧めできません。このような場合、訴訟を起こす前に「証拠を作る」作業が必要になるのです。
たとえば、お金の貸し借りについては借用書で証明できたが、支払の時期については何の約束もないということもよくあることでしょう。法律上、弁済期について何の約束もしないでお金を貸した場合、貸主は「いつまでに支払いをせよ」と期限を定めた請求をする必要があります(民法・591)。長島さんも中畑さんから念書をもらっていますが、弁済期については何の約束も交わしていませんでした。そのため中畑さんは、弁済期を過ぎているにもかかわらず支払いをしない、ということを証明するための資料作りとして、内容証明郵便を送り、「いついつまでに支払いをせよ」と督促しているのです。
「証拠作り」としては他にも、隠し撮り・電話録音・確認書を取り交わす等が考えられます。訴訟では、自分の主張を十分に立証できなければ敗訴となってしまうのですから、訴訟を起こす前段階での、この証拠作りも大切な作業の一つなのです。

 

  1.  借主の反論 〜 借主からの反論にはどのように対処すべきでしょう?

抗弁事由

 

 

 

 

10年の
時効期間

 

 

 

 

予想される抗弁には準備を抜かりなく!

 借主からの反論を「抗弁」と呼びます。貸金請求事件で考えられる抗弁には次のようなものがあります。
@)「借りたんじゃなくてもらったんだ」
A)「もう返済したはずだ」
B)「まだ約束の期限がきていない」
C)「もう時効だから払う必要がない」
借主が、@)〜B)のような主張をしてきたとしても、貸主側でBのような証拠がきちんと整っているならば、そんなに心配する必要はありません。ここでは、C)の時効について考えてみましょう。
時効とは、一定期間借主側でも支払いをせず、貸主側でも請求しない状態が続いた場合に、期間経過後はいくら貸主が請求しようと、借主が時効の主張をすれば支払いをしなくてもよいという制度のことで、個人間のお金の貸し借りについては、時効期間が10年とされています(民法・166)。もしも貸主が何の請求もせず、借主も1円も払わないという状態が10年以上続いている場合、いきなり訴訟に持ち込んでも、借主側から時効の主張がされれば敗訴となってしまいます。そこでこのような場合、訴訟に持ち込む前に一工夫する必要があるのです。
借主が借りたお金の一部の返済としてたとえ1円でも返済するか、確かにお金を借りていると認めれば、借主は時効の主張ができなくなります。そこで、少しでも返済を受けた場合、但書きの欄に「○年○月○日貸付金の一部として」と記載した領収書を発行しておくとよいでしょう。またわずかの返済も得られない場合、「○円を借り受け、現在○円残っていることを確認します」などといった覚書を交わしておくのも1つの方法です。
このように、ただ少額訴訟を提訴するだけでなく、訴えられた借主がどのような反論をしてくるのかある程度の予測を立て準備を抜かりなく行っておくことが、裁判に勝つ上で大切なことなのです。

  1.  その他の注意点 〜 貸金請求事件では、ほかに注意する点があるでしょうか?

 

本当に金を貸したのか?

事実に基づき訴えよう!

 たとえば「あなたの友人が飲み屋でお金が足りなくなり、立て替えてあげた」なんてことがあるでしょう。友人はその場で、「借用書」なる文言に一筆書いてくれましたが、その後はなしのつぶで。あなたはこのままでは埒があかないので、少額訴訟を起こすことにしました。
この場合、あなたが起こすべき少額訴訟は「貸金請求」でいいのでしょうか?確かにあなたは友人から「借用書」をもらっています。文字通り「借用書」とは、金を借りたということを意味しますが、でもこの場合あなたが「貸した金を返せ!」と訴え出ると、友人からは「借りた覚えはない」なんていう反論のなされる可能性があります。
少額訴訟は、いわゆるラウンドテーブルのもと、一日で判決言渡を済ませるのが原則です。相手方から思わぬ抗弁を主張された場合、訴えた側が十分な反論をできないとなると敗訴判決となることも考えられます。ですからできるだけ、相手方に反論のチャンスを与えないようにすべきなのです
今回の場合、「貸金請求」ではなく「立替金請求」というように、請求すべき権利が発生した事実の通り訴えを起こすことよう心掛けましょう


3.書式記載例


訴状(少額訴訟)

 本件につき、少額訴訟による審理及び裁判を求める。
本年御庁に少額訴訟による審理及び裁判を求める回数   1回

        〒420ー☆☆☆☆ 静岡市☆☆☆☆☆町1番2号(送達場所)
原 告  長 島 辰 徳
電 話 054−☆☆☆−☆☆☆☆
FAX 054−☆☆☆−☆☆☆☆

        〒422ー☆☆☆☆ 静岡市☆☆☆二丁目9番1号
被 告  中 畑 茂 雄

貸金請求事件
訴訟物の価格  金200,000円
貼用印紙額   金2,000円

請求の趣旨
1、被告は原告に対して金200,000円及びこれに対する平成11年2月20日から支払済にいたるまで年5分の割合による金員を支払え。
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
との少額訴訟判決並びに第一項について仮執行宣言を求める。
  1. 紛争の要点
    1、原告は被告に対し、次のとおり金員を貸し渡した。(甲第1号証)
    1 貸付年月日  平成10年10月1日
    2 貸付金額   金200,000円
    3 弁済期    平成10年12月31日
    4 利息     定めなし
    5 損害金    定めなし

2、原告は、中学時代の友人であった被告から懇願され、上記のとおり金員を貸し付け念書をもらった。

3、被告は「年末には返す。」と言っておきながら、年が明けても一向に返す様子もなく、電話をかけても不在や居留守を使っている。  
4、そこで原告は、平成11年2月8日付内容証明郵便をもって到達後10日以内に上記金員を返済されたい旨の催告をなし(甲第2号証)、前記内容証明郵便は同月9日に到達した。(甲第3号証)しかし、被告は、支払催告期日である同月19日を経過したにもかかわらず、その支払いをしない。

5、よって原告は被告に対し、金200,000円及びこれに対する平成11年2月20日(支払催告期日の翌日)から支払済にいたるまで、民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

  1. 証拠方法
    1、甲第1号証      念 書
    2、甲第2号証      内容証明郵便
    3、甲第3号証      配達証明書
  2. 添付書類
    1、訴状副本               1通
    2、甲号証写し             各1通

 平成11年  月  日

              上記原告  長 島 辰 徳

   静岡簡易裁判所 御中


4.東京簡裁における貸金請求事件の概要

請求金額の特徴


10万円未満

9件

15.0%

10万円以上20万円未満

21件

35.0%

20万円以上30万円まで

30件

50.0%

事件の処理の状況


訴え取下げ

8件(16.3%)

和解

10件(20.4%)

判決

27件(55.1%)

    うち対席

5件(10.2%)

      欠席

22件(44.8%)

通常手続移行

4件( 8.1%)

    うち被告申述

1件( 2.0%)

    うち職権決定

3件( 6.1%)

審理の状況


   審理時間

30分以内

10件

66.6%

1時間以内

2件

13.3%

1時間半以内

2件

13.3%

2時間以内

0件

0.0%

3時間以内

1件

6.6%

3時間超

0件

0.0%

取調べ人証

0人(なし)

14件

93.3%

1人

0件

0.0%

2人

1件

6.6%

3人以上

0件

0.0%


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