迷惑メールの根絶!! 〜 改正特定商取引法による法規制

 電子メールは、今や仕事でもプライベートにおいても、なくてはならない通信手段となりました。私も、毎日数十通のメールを受信しており、仕事の合間を縫ってのメール対応に追われています。最近では、登記費用の見積もりや委任状等をメールで送信させていただくケースも増えています。読者の皆さんの中にも、仕事上でメールを活用されている方は多いのではないでしょうか。
相手の都合にかかわらず用件を伝えることができ、モバイル環境さえ整えば外出先からでも対応が可能であり、添付ファイルの機能を使えばさまざまな資料も送信できる電子メールは極めて便利なツールなのですが、一方でいわゆる「迷惑メール」への対応に苦慮されている方も少なくないでしょう。この「迷惑メール」、実は、法律による規制を受けているのですが、読者の皆さんはご存知でしょうか?
今回は、平成20年12月1日に改正施行されたばかりの「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」の説明をしながら、「迷惑メール」に関する法制度をご紹介したいと思います。

1 特定商取引法とは
特定商取引法という法律は、世の中に存在する様々な取引形態の中から、いわゆる「消費者被害」だとか「消費者トラブル」に分類される相談や苦情が集中する取引をピックアップし、これらの取引形態(法は「特定商取引」と定義しています)によって契約を締結した方々を、一定の要件の下で保護することを目的とする法律です。
法が定める「特定商取引」には、皆さんにもなじみの深い「通信販売」(カタログショッピングやテレビショッピング等)、よく耳にされるであろう「訪問販売」、自宅を訪問する代わりに電話を用いて勧誘を行う「電話勧誘販売」、いわゆるマルチ商法(法では「連鎖販売取引」と定義されています)、英会話やエステ、パソコン教室など一定期間にわたりサービスの供給を受けることを内容とする「特定継続的役務提供」、「チラシ制作の内職仕事があります」などと勧誘し、仕事に不可欠という理由で高額なパソコン等をセット売りするような“内職商法”に代表される「業務提供誘引販売取引」の6つです。
これらの取引形態によって契約を締結した方々には、一定の要件の下でクーリング・オフと呼ばれる無条件の解約権が与えられる等、特定商取引法ではさまざまな消費者保護規定が用意されているのです。

2 メール勧誘は「通信販売」
ところで、事業者が電子メールを利用して顧客を勧誘しようとする行為は、以上の6類型の「特定商取引」の内の「通信販売」に該当することとなり、特定商取引法の規制を受けることとなります。
特定商取引法が規制の対象とする電子メールは、事業者による勧誘のためのメールであり、仕事上の事務連絡やメーリングリスト上での議論、プライベートなやりとり等が規制の対象とならないことは当然です。そこで以下では、特定商取引法が規制の対象とする電子メールを「広告メール」と表現することとします。

3 従来の法規制
これまでも特定商取引法では、広告メールを規制する規定を設けていました。その内容は、【「広告メールを送らないで欲しい」と意思表示した者に対し、再度のメール送信を禁止する 】というもので、“オプトアウト規制”と呼ばれるものでした。
オプトアウト規制の下では、広告メールを利用して顧客の勧誘をしようとする事業者は、送信するメールのタイトルに『未承諾広告※』という記載が義務付けられます。広告メールは商品の販売を目的とするものに限られず、出会い系サイトやアダルトサイト等のサービス提供を目的とする広告メールも対象になります。出会い系サイトのような迷惑メールはまさに氾濫状態でしたから、メールのタイトル上に『未承諾広告※』なる文字を目にされたことのある読者も多いことでしょう。
タイトルに『未承諾広告※』と付された広告メールを開くと、文中に「今後のメール受信を希望されない場合には、***(相手方のメールアドレスが表示されている)宛てに空メールを送信してください」等の表現により、受信者に対し、再度のメール送信を拒むための方法が明記されています。受信者が、送信者の指定した方法により「送信拒絶」の意思表示をした場合には、以後、送信者はその方に対する広告メールの送信ができなくなるのです。
しかし、メールの普及が進むに連れ、多数の迷惑メールにいちいち「送信拒絶」の返信をする作業が煩わしかったり、同じ業者が送信者名を次々と変更しては同種の広告メールを送信したりするような状態が発生し、「オプトアウト規制では不十分」という意見が散見されるようになりました。また、悪質な業者の中には、「送信拒絶」メールの送信先として表示されたアドレスをクリックすると、自動的に有料画面に移動してしまい、後日になって謂れのない利用料が請求されるというような被害例まで発生し始め、抜本的な法改正が求められるようになったのです。

4 法改正のポイント 〜 オプトアウトからオプトインへ
このような事情の下、平成20年6月に成立した「改正特定商取引法」では、従来の“オプトアウト規制”を“オプトイン規制”に変更し、迷惑メール根絶に向けた改正を行いました。
拒絶した者に対し広告メールを送信できないオプトアウト規制に対し、“オプトイン規制”は【広告メールを送信する前に、あらかじめ受信者の“請求や承諾”を得なければならない】とする考え方で、請求や承諾を得ていない広告メールの送信は、原則としてすべて禁止されることになります。
以下、改正点のポイントについてご説明します。
(1)規制の対象となる広告メール
特定商取引法により規制されるのは、先に掲げた6つの特定商取引の内の「通信販売」「連鎖販売取引」「業務提供誘引販売取引」の3つの取引形態によって消費者と取引しようとする事業者が、取引の対象となる商品やサービスについて電子メールを用いて広告をする場合です。
「通信販売」では、通信販売の対象となる商品の販売条件・サービスの提供条件に関する広告メールで、事業者が消費者に対し、その広告メールを利用し、電話・ハガキ・FAX等の通信手段を用いて購入の申込みができるものが、特定商取引法の規制対象となります。
なお、以下では「通信販売」を中心に説明しますが、「連鎖販売取引」と「業務提供誘引販売取引」についても、同様の規定が設けられています。
(2)規制の対象者
広告メールの規制対象を受ける者は、消費者と契約を直接締結する事業者だけに限られません。広告メールの実態を検証すると、インターネット通販等を主な業務とする複数の事業者を広告主とし、彼らから、下記に掲げる業務を一括受注し、不特定多数の消費者に対し広告メールをばらまくことを業務とする「電子メール広告受託事業者」の存在が判明します。
そこで、改正法は、下記に掲げる業務を「一括受託」する者を、規制の対象者に加えました。なお、下記ア・イ・ウの内の一部の業務のみを受託する者には、規制が及ばないのでご注意ください。
一括受託(委託)する業務の内容
ア・消費者から広告メールの送信について、請求や承諾を得る業務(オプトイン規制をクリアするための業務です)
イ・消費者からの請求や承諾の記録を作成し、保存する業務(後述)
ウ・広告メールに、消費者が受信拒否の意思を表示するための方法や連絡先などを表示する業務  
(3)オプトイン規制
既に指摘のとおり、改正点の目玉となります。オプトイン規制の導入により、あらかじめ消費者からの“請求や承諾”を得ていない広告メールは、原則的にその送信が禁止されます。
よって今後は、広告メールを送信して勧誘しようとする事業者は、あらかじめ消費者から「送信して欲しい」という“請求”や、「送信してもよい」という“承諾”を得ることが義務付けられるのです。
また、改正前は規制の対象とされていなかった携帯電話の「ショートメールサービス」(いわゆる携帯メール,「SMS」と呼ばれているそうです)を利用した広告も、改正法により、新たに規制の対象に加えられました。
ただし、次に掲げるケースでは、オプトイン規制が適用されませんので、ご注意ください。
適用除外のケース
ア・消費者からの“請求や承諾”を得て送信する電子メールの一部に広告を掲載する場合
〜 すでに、オプトインによる規制がクリアされていますので、広告メールの送信は許されます。
なお、いわゆる「メールマガジン(メルマガ)」の一部に広告が掲載されるような場合も考えられますが、この場合も、消費者がそのメルマガを送信することを“請求”し、または“承諾”している場合に限られます。
イ・契約内容や契約履行に関する通知など「重要な事項」を通知するメールに広告が含まれる場合
〜 オンラインショッピングを利用し、インターネット上で商品を購入するような場合、一般に、注文を受けた事業者から〔契約の成立〕〔注文確認〕〔発送通知〕等、契約内容や契約履行に関わる「重要事項」が記載された確認メールが送信されます。
このような場合、消費者が自ら欲して商品を購入したのですから、“請求”あるいは“承諾”と同視することができる事情がありますので、事業者がこれらの確認メールに付随して広告メールを送信することは許されます。
送信が許されるのは「重要事項」が記載された確認メールに付随する場合だけですので、単なる事務連絡や、消費者が欲しない情報の提供、アフターサービスに関する連絡等に関するメールに付随する広告メールの送信は、オプトイン規制に抵触します。
ウ・フリーメール等に付随する広告メール
〜 インターネット上で、無料でメールアドレスを取得できるサービスのことを「フリーメール」と称します。無料でメールが利用できる条件として、利用者がそのアドレスを使用してからメールを送信すると、送信されたメール上に、事業者の広告が自動的に掲載されることが多いのが特徴です。
よく、個人の方からのメールを受信すると、まったく関係のない会社の広告が表示されているケースがありますが、それがこの「フリーメール」です。
フリーメールサービスを利用して送信されたメールを受信する消費者は、広告メールの提供を“承諾”しているわけではありませんが、これらのメールは一般には個人間での情報伝達手段として活用されるものであり、事業者が、フリーメールサービスを利用することは稀であることから、規制の適用除外とされたようです。
(4)オプトインの実効性 〜ガイドラインの策定
オプトイン規制の実効性を高めるため、特定商取引法を主管する経済産業庁は、『電子メール広告をすることの承諾・請求の取得等に係る「容易に認識できるよう表示していないこと」に係るガイドライン』を策定し、消費者が、容易に“請求や承諾”を取得する方法を認識できるよう、事業者に対する指針を例示しています。
ガイドラインでは、
(A)単独の事業者からの広告メール送信について“承諾”を得る場合
例・商品購入を目的とする「ショッピングサイト」
(B)複数の事業者からの広告メール送信について、一括して“承諾”を得る場合
例・いわゆる「懸賞サイト」
のそれぞれにおける承諾取得のあり方について、<望ましい例>と<望ましくない例>に分けて紹介されています。 以下、抜粋し引用します。
(A)単独の事業者からの広告メール送信について“承諾”を得る場合
<望ましい例>
・【広告メールの送信を希望する】というチェックボックスが空欄になっており、消費者が自らチェックを入れる方式(「デフォルト・オフ」と呼ばれます)
・【広告メールの送信を希望する】というチェックボックスに予めチェックが入っている方式(「デフォルト・オン」と呼ばれます)の場合、全体が白色系の画面に対し、デフォルト・オン状態のチェックボックスは赤字などの反対色やアンダーラインなどで表示されており、かつ、その表示が最終的な申し込みボタンに近い場所に置かれている場合のように、デフォルト・オンの表示が消費者から見て分かりやすい内容である必要がある
<望ましくない例>
・膨大な画面をスクロールしないと広告メール送信についての承諾の表示にたどり着けない場合、利用規約の中や画面の途中部分に小さい文字で記載されている場合等、消費者がよほど注意深くないと見逃してしまい、自動的に承諾した形になってしまいやすい場合
(B)複数の事業者からの広告メール送信について、一括して“承諾”を得る場合
<望ましい例>
・消費者にメールアドレスを入力させることを条件に無料サービスを行うサイトでは、無料情報サービスの送付に付随して電子メール広告を送る旨の請求や承諾を消費者から取る必要があるが、「メールアドレスの入力=関連サイトからの電子メール広告の送付の承諾」ということを消費者が容易に認識しやすいように明示する必要がある
・広告メールを送信することとなる複数の関連サイトについて、業種(例・ファッション系、家電系など)、企業名、サイト名等を併記することにより、どのような電子メール広告の送信について消費者が承諾したのかが具体的に認識しやすいようになっている場合
<望ましくない例>
・「メールアドレスの入力=関連サイトからの電子メール広告の送付の承諾」ということを消費者が容易に認識できないような表示がされている場合
・広告メールを送信することとなる複数のサイトを「姉妹サイト一覧」と表示しているだけの場合
・広告メールを送信することとなる複数のサイトについて、URL一覧がメールアドレスの入力欄の近くになく、クリックしても別の画面に移動しないとどのようなサイトなのか消費者が容易に認識できない場合
(5)その他の改正ポイント
改正法におけるその他の主なポイントとしては、以下に掲げるとおりです。
@ 送信された広告メール上に、以後その広告メール送信を拒否するための方法を表示しなければならないこと
A 拒否の方法として、メールアドレスまたはホームページアドレス(URL)等、インターネット上の拒否方法が表示されていなければならないこと
B AのメールアドレスまたはURL等は、広告メールの本文に記載しなくてはならず、かつ消費者が容易に認識できるように表示しなくてはならないこと
C 広告メールの送信を拒否した消費者には、それ以後、電子メール広告を送ってはならないこと
D 広告メールを送信することについて、消費者からの“請求や承諾”を受けた際の記録を、事業者が3年間保存しておかなければならないこと
E 違反行為については、下記のとおりの刑事罰規定を新設したこと

5 終りに
以上、迷惑メールに関する改正法の説明をしてきましたが、法が整備されれば、直ちに迷惑メールが皆無となるわけではありません。せっかくの改正法が、生きた法律となるよう、経済産業庁その他の関係官庁には、新設された刑事罰等の積極的な適用をぜひとも期待したいところです。
なお、より詳細な情報は、経済産業省(http://www.meti.go.jp/)および消費生活安心ガイド(http://www.no-trouble.jp/)のホームページにそれぞれ掲載されていますので、ご参照ください。

 


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