貸金業法改正運動B 出資法の上限金利をめぐる動向

上限金利規制をめぐる動向

 8月24日、金融庁では第19回貸金業制度等に関する懇談会が開催され、私は、日本司法書士会連合会の担当委員として傍聴に出かけた。開始30分前から傍聴席は満席となり、会場は立ち見の傍聴者や報道関係者で溢れ返っていた。この問題に対する各方面からの関心の高さが伺われる。
1 行政
金融庁は、昨年3月30日、貸金業を取り巻くさまざまな制度に関する法改正のため、学識経験者や法曹、業界代表者等を委員とする「貸金業制度等に関する懇談会」(以下「懇談会」)を設置、多重債務者の発生や増大をいかに防止するかという共通認識の下で議論を重ね、本年4月21日、「座長としての中間整理」(座長・吉野直行慶応大学教授)を発表した。
中間整理で取り纏められた論点は、金利規制やグレーゾーンの問題に加え、過剰貸付け・多重債務の防止、契約・取立て等にかかる行為規制、参入規制・監督手法等、金融経済教育とカウンセリング等と多岐にわたる。
金利規制等について中間整理は「利息制限法の上限金利水準に向け、引き下げる方向で検討することが望ましいとの意見が委員の大勢」と指摘した。実は、本年3月頃まで、委員の大半は「日和見」状態であり、積極的に金利引下げを主張していたわけではない。むしろ、業界出身の委員により「金利規制の撤廃」「みなし弁済規定の存続」が未だ声高に叫ばれていたのである。それが、わずか1ヶ月の間に「引き下げ」へとドラスチックに転換した背景にはふたつの大きな要因があると指摘される。ひとつは4月14日に発表された「アイフル全店業務停止命令」であり、もうひとつは与謝野金融担当大臣並びに後藤田内閣府金融担当大臣政務官の両名が「引き下げ」実現に向けた強いリーダーシップを発揮し始めたのがこの頃なのだ。
2 司法
グレーゾーンの誕生は、民事法である利息制限法と刑事法である出資法とで、異なる金利規制を設けたことに起因する。貸金業規制法が制定されたのは昭和58年、「第一次サラ金パニック」と呼ばれた時代のことである。規制という「ムチ」を課される業界の猛反発を交わすため、グレーソーンという「アメ」を与えた立法の過ちは、ノルマ至上主義という業界の体質とも相まって、高金利・過剰融資・過酷な取立てという「サラ金三悪」を社会に蔓延させたのだ。
グレーゾーンに最初にNOを突きつけたのは司法であった。最高裁判所は、平成16年2月20日に「利息制限法の厳格解釈」を宣言して以降今日まで、一貫してみなし弁済の成立を主張する貸金業者の訴えを退け、利息制限法を超える利息の取得を否定し続けたのである。もはや、みなし弁済規定を定めた貸金業規制法43条は、その存在意義を失ったと言っても過言ではない。
3 立法
司法で勝ち、行政でも「委員の大勢」によって利息制限法まで引き下げと結論付けられた金利規制は、本年5月、優勢な状態を保ちつつ立法府へと議論の舞台が移された。しかし、事態は私たちに休息を許さなかった。業界団体の顧問に就任し、業界から政治献金を受け取っていると囁かれる某有力議員を中心に、「規制撤廃・金利引き上げ」を目指す超党派の団体結成が画策されたのだ。
この時点では、積極的に「引き下げ」を主張する自民党議員はまだまだ少数であった。「国を動かすのは地方と世論」という信念の下、私たちは日本弁護士会連合会やクレジット・サラ金問題対策協議会と連動し、街頭署名や全国キャラバン活動、全国各地での集会やデモ行進、地方議会に対する金利引き下げやみなし弁済撤廃を求める国への意見書採択の要請活動等、大々的な運動に精力的に取り組んだ。運動の輪は法律実務家や被害者団体に留まらず、消費者団体や労働団体にまで広がりを見せた。その一方で、国会議員へのロビー活動も着々と進められたが、業界の政治力は私たちを凌駕するほど熾烈を極めたとの報告もあり、予断を許さない状況が続いた。
自民党が公式に立場を示したのは6月15日のこと。党内に設置された「金融調査会・貸金業制度等に関する小委員会」で、出資法の上限金利を利息制限法の利率に一本化する旨のおおむねの合意が成立、7月6日には、自民党金融調査会と公明党金融問題調査委員会との与党連名による「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」(以下、「与党案」)が示され、グレーゾーンの廃止と、出資法の上限金利を利息制限法の金利水準に引き下げる方針が打ち出され、早ければ、今秋の臨時国会で法改正が実現される見込みとなった。
4 残された課題
懇談会は4月の中間整理発表後は中断されていたが、与党両党の要請を受け、与党案に対する詳細な検討を加えるため、7月27日に再開された。冒頭の第19回懇談会は再開後の2回目。与党案に対する第18回懇談会での委員からの意見を踏まえ、金融庁から「検討状況」が示されたのだ。
グレーゾーン廃止、出資法金利と利息制限法金利の一本化の2点については、ほぼ合意に達している。残された課題は、@短期小口貸付けに対する特例金利の設定、A出資法金利の具体的な定め方(利息制限法同様15〜20%とするのか、一律20%とするのか)Bグレーソーン廃止・金利引き下げの施行時期の3点である。
@は、短期小口の資金需要が高いことから、一定の要件を具備した貸付けについて、利息制限法を超過する利息の取得を認めろとする業界側の主張だ。しかし、「高い」とされる資金需要の例が思い浮かばない。「旅先での手許不如意」等が挙げられることもあるが、極めてレアケースであり、特例を認めるほどの要請があるとは到底考えられない。懇談会でも、業界出身の委員以外はほぼ全員が「特例否定」を明確に示している。昭和58年の過ちは、2度と繰り返されてはならないのだ。
Aは、出資法が刑罰金利を定める性質上、犯罪を構成するか否かを明確にするためにも20%に統一すべきとの主張だ。しかしこれも、10万円以上の貸付け(利息制限法では15〜18%が上限)についてグレーゾーンと同様の不透明な「隙間」を生むことになり、過ちの繰り返しに繋がりかねない。そもそも、15・18・20という数字の違いが、犯罪か否かの判断の際にどれだけの不明瞭さを生じさせるのか、甚だ疑問である。
Bは、グレーゾーン廃止・金利引き下げによる「激変緩和」(金融庁)を目的とするため、一定の経過措置を設けるべきとのこと。しかし、現に複数のカード会社が、引き下げ後を見据え、キャッシング金利を利息制限法の範囲内に自主的に引き下げているように、「引き下げ」は貸金業界を含んだ各方面において十分に予測され、準備されつつある合意事項だ。「激変」の生じる余地は少ない。
なお、紙面の関係で金利問題だけを取り上げたが、懇談会で議論されているその他の項目も、ぜひご一読頂きたい(http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kasikin/siryou/20060824/19-01.pdf)。
5 例外なき金利引き下げを!
第19回懇談会の翌25日、与謝野大臣は「制度が移行する場合、緩やかに関係者が対応できる措置が必要」と会見し、時限付き特例金利を容認する意向を示した。「引き下げ」の牽引役であった大臣の発言であるため、大きな波紋を呼んでいる。敵は国内の業界だけではない。日本の貸金業界へ参入しているGEキャピタル(レイク)・シティグループ(CFJ)の要請を受けた米国金融機関等が与謝野大臣宛てに引き下げ反対の書簡を送ったほか、米国財務省も非公式ながら日本政府に見直しを打診しているそうであり、外圧との闘いもある。秋の国会審議まで、まだまだ気の抜けない日々が続くことだろう。
本稿が読者皆様のお手許に届く頃、金利情勢はどうなっているのだろうか?多重債務者救済の現場に携わる者として、共に「例外なき金利引き下げ」の実現に向けた運動に力を注ごうではありませんか。

原稿一覧

司法書士法人浜松総合事務所

〒431−3125
静岡県浜松市東区半田山5丁目39番24号
TEL 053−432−4525
マップ