債権回収C 身に覚えのない強制執行を受けたのですが 〜 第三者異議の訴え

Q 私は、クレジット会社から家財道具の差押えを受けました。執行官の訪問の際、妻が「これは私が友人から預かっているAV機器だから差し押さえられては困る」と伝えたのですが、執行官は「後で弁護士に相談しなさい」と言うだけで話を聞いてくれず、強引に差し押さえてしまいました。
他人の物を差し押さえることが許されるのでしょうか。また、何らかの対応策が取れないのでしょうか。

 1 第三者異義の訴え
ご質問の場合、AV機器一式の所有者である友人より「第三者異議の訴え」という法的手続きを採ってもらうことにより、AV機器への差押えを取消してもらうことができます。
以下では、第三者異議の訴えについて説明していきます。
ご質問のケースでは、動産執行という強制執行が行われています。強制執行は本来、履行しなければならない債務(例・借金の返済など)を任意に履行しない者に対し、裁判所という公権力を利用して債務者の財産を強制的に売却し、売却代金でもって債権回収を図ろうとすることを趣旨とする制度ですから、債務者以外の第三者の財産についてまで強制執行の効力が及ぶことはありません。
しかし現実の執行は、債務者による財産隠しを防止する等の観点から迅速に行われることが要求されます。そこで法律は、執行の対象となる財産が債務者の財産であるか否かについて「外形上の事実」についてだけ調査をすればよいということになっており、実際に誰の財産であるのかという「実態的判断」までは必要としていません。ご質問のケースでも、債務者(本件では「私」)の自宅内にある動産は、外形上はすべて「私」の財産であると判断することができるため、実際には第三者(本件では「妻の友人」)の財産であるAV機器が差し押さえられたとしても、執行自体が違法となるわけではないのです。
しかしこれでは、偶然に貸していただけのAV機器を差し押さえられた「妻の友人」の権利が不当に侵害されてしまうことになります。そこで法律は、強制執行によって自身の権利を侵害された第三者から執行に異議を申し立てる機会を与えて、第三者の被害回復を図ることができるようにしています。この異議申し立ての制度が「第三者異議の訴え」と呼ばれるものなのです(民執38条)。

2 第三者異議の訴えはどのような場合にできるか
執行の種類には、ご質問のような動産執行のほかにも、不動産を強制的に売却する方法(不動産執行)、不動産の管理をすることで賃料収入等から債権回収を図る方法(強制管理)、抵当権や根抵当権に基づく執行など、様々な種類があります。
第三者異議の訴えは、これらいずれの執行の場合にも適用されます。もちろん、公正証書に基づく強制執行の場合にも適用があります。

 3 どんな事情があれば第三者異議の訴えが認められるか
第三者異議の訴えは、法文上、「強制執行の目的物について、所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する」ときに提起できるとされています。
これをご質問のケースで考えれば、@)「妻の友人」のAV機器の所有権という権利が差押えによって侵害されたという事実と、A)「妻の友人」自身が所有権を有していることを「法的に債権者(本件では「クレジット会社」)に主張できる」立場にあること、この2点の事情が存在する場合に第三者異議の訴えが提起できることになります。
自身の所有権を「法的に債権者に主張できる」ことを、法律では「対抗できる」と表現し、対抗できる立場にあることを「対抗要件を備えている」と表現します。対抗要件とは、目的物が不動産の場合は「登記」(民177条)、動産の場合には「引渡し(*)」(民178条)と法律によって決められていますので、仮に執行によって自身の権利が侵害されたとして第三者異議の訴えを提起しようとしても、その者が「登記」や「引渡し」を備えていない場合、上記@)の条件は満たしているがA)の条件を満たしていないことになり、訴え提起が認められないことになってしまうのです。
また対抗要件は、執行開始時に備えているだけでは足りず、第三者異議の訴えの終結時(正確には「事実審の最終の口頭弁論終結時」)まで備えていることが必要と考えられていますから、執行の着手後にあわてて対抗要件を備えた場合や、執行の着手後に不動産を他人に売却し登記名義を変更したような場合、第三者異議の訴えは提起できないことに注意が必要です。
(*)ここにいう「引渡し」は法律用語ですから、いわゆる物を他人に移転するような意味での現実の引渡しに限らず、観念的な引渡しのようなものまで広く法律で定められています(民182〜184)。

4 訴訟手続
{一} 訴え提起の時期
本書の想定する公正証書は、金銭債務に関する執行だけを予定しています。第三者異議の訴えは、具体的執行に対する異議の申し立ての制度と考えられていることから、動産や不動産などの目的物に対して執行が具体的に開始された場合に初めて提起できます。
一方、土地や建物の明渡しなど、公正証書以外での執行の場合には、具体的に執行開始まで待っていたのでは時期を失し、権利侵害の回復が図れないようなケースも考えられるため、事情によっては執行の着手前から第三者異議の訴え提起を認めています。
{二} 管轄・訴額
第三者異議の訴えの管轄は、執行裁判所の専属管轄と定められておりますから(民執38条B・19条)、取り消しを求める執行の申し立てられている裁判所以外には提起できません。
訴額は、原則として執行の取り消しを求める目的物の価格を基に算定します。訴えを提起しようとする者は、訴額に応じて訴状に収入印紙を貼らなければなりません。
{三} 当事者
第三者異議の訴えを提起できるのは、上記3の@)A)双方の条件を満たしている者で、これが「原告」です。相手方は執行を申し立てた債権者で、これが「被告」です。
ご質問のケースでは、原告が「妻の友人」、被告が「クレジット会社」となります。

5 執行停止・取消しの仮の処分
第三者異議の訴えを提起しても、それだけでは実際に開始されている執行を停止することはできません。執行を停止し、自身の所有物が売却されることを未然に防止するためには、第三者異議の訴えとは別に「執行停止の申立」をしなければなりません(民執38条C・36条)。「執行停止の申立」についての詳細は請求異議の訴えの項を参照下さい。
なお、「執行停止の申立」には保証金の供託が必要となりますが、この金額はおおむね、執行目的物の価格の1割から3割程度と考えられます。



訴   状

平成○○年○月○日
○○地方裁判所○○支部 御中
原 告  谷 川 二 郎  印
〒000−0000 ○○県○○市○○○○○○(送達場所) 
原 告  谷 川 二 郎     
電 話  000−000−0000
FAX  000−000−0000
東京都○○区○○○○○○       
〒000−0000 ○○県○○市○○○○○○(送達場所) 
被 告  ○○クレジット株式会社     
代表者代表取締役 ○ ○ ○ ○      
第三者異議の訴
訴訟物の価格  金     円
貼用印紙額   金     円
請求の趣旨
1 被告が訴外山本一美に対する大阪地方法務局所属公証人○○○○作成の平成○○年第○○○号執行力ある公正証書正本に基づき平成○○年○月○日別紙目録記載の動産に対してなした強制執行は、これを許さない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因
1 被告は、訴外山本一美に対して大阪地方法務局所属公証人○○○○作成の平成○○年第○○○号執行力ある公正証書正本に基づき平成○○年○月○日別紙目録記載の動産につき差押えをした。
2 しかしながら、右差押えにかかる動産は原告の所有に属し(甲第1号証)、単に訴外山本一美に預けていただけのものである(甲第2号証)。
3 よって、原告は被告に対し、所有権に基づき別紙目録記載の動産についての強制執行を排除するため本訴に及んだ。
証拠方法
甲第1号証   本件動産購入時の領収書
甲第2号証   訴外山本一美の本件動産の預り書
添付書類
1 訴状副本     1通
1 甲号証写し   各1通
1 資格証明書    1通


強制執行停止決定の申立て

平成○○年○月○日
○○地方裁判所○○支部 御中
申立人  谷 川 二 郎  印 
〒000−0000 ○○県○○市○○○○○○(送達場所) 
申立人  谷 川 二 郎     
電 話  000−000−0000
FAX  000−000−0000
東京都○○区○○○○○○       
〒000−0000 ○○県○○市○○○○○○(送達場所) 
被申立人  ○○クレジット株式会社     
代表者代表取締役 ○ ○ ○ ○      
申立ての趣旨
被申立人が訴外山本一美に対する大阪地方法務局所属公証人○○○○作成の平成○○年第○○○号執行力ある公正証書正本に基づき平成○○年○月○日別紙目録記載の動産に対してなした強制執行は、御庁平成○○年(ワ)第○○○号第三者異議事件の判決あるまでこれを停止する。
との決定を求める。
申立ての理由
1 被申立人は、訴外山本一美に対して大阪地方法務局所属公証人○○○○作成の平成○○年第○○○号執行力ある公正証書正本(疎甲第1号証)に基づき平成○○年○月○日別紙目録記載の動産につき差押えをした。
2 しかしながら、右差押えにかかる動産は申立人の所有に属し(疎甲第2号証)、単に訴外山本一郎に預けていただけのものである(疎甲第3号証)。
3 よって、申立人は被申立人に対し第三者異議の訴えを提起したが、右裁判の結果を待っていては執行が完了してしまうおそれがあるため、本申立てに及んだ。
疎明方法
疎甲第1号証   執行調書
疎甲第2号証   本件動産購入時の領収書
疎甲第3号証   訴外山本一美の本件動産の預り書
疎甲第4号証   申立人の陳述書
添付書類
1 甲号証写し   各1通
1 資格証明書    1通 



平成○○年(ヲ)第○○○号 強制執行停止申立事件
申立人 谷 川 二 郎
被申立人 ○○クレジット株式会社

陳  述  書 


平成○○年○月○日
○○地方裁判所○○支部 御中

1 私は、肩書地の父の自宅に父と同居しています。
2 私は、昨年○月妻と離婚し、以来父の家に身を寄せています。元来、私はAV機器の収集を趣味としており、離婚にあたっても妻との間で財産の清算をする際にも、私が購入したAV機器一式は私が引き取ることで合意いたしました。しかし父の家も狭く、右一式を家に置くことができませんでした。
3 他方、友人の山本一美は、当時結婚間もない時期であり、電化製品等も十分にそろってはいなかったところ、偶々私の以上のような状況を知ることとなり「当面必要ないのであれば貸して欲しい」との申し出を受けることとなりました。
私も、高い保管料を支払ってまで倉庫に預けるのでは負担が重いので、山本の求めに応じた次第です。
4 私は山本の経済状況まではまったく知りませんでしたが、今般、借金の延滞を理由に強制執行を受け、私が預けたAV機器を含めて執行されてしまいました。
私が山本に預けたAV機器は、いずれ私が父の家を出ましたら自分で使用したいと思っていますし、山本に贈与したのでもありません。
5 以上申し述べましたとおり、本申立書の目録に書いてある動産は私の所有です。

 以上のとおり相違ありません。
○○県○○市○○○○○○
申立人  谷 川 二 郎 



原稿一覧

司法書士法人浜松総合事務所

〒431−3125
静岡県浜松市東区半田山5丁目39番24号
TEL 053−432−4525
マップ