過払金の返還A 〜 成功事例の報告です・・・

登記情報「私の成功体験記」 

@ 過払い金返還一斉提訴
会社勤めの夫と2人の子供という極めて平均的世帯であった佐野さん(64歳,年金生活者・加盟)一家が、夫の脳梗塞により日々の生活費に窮するようになったのは昭和50年頃のこと。やむなくサラ金から借入れをおこしてその場をしのいだものの、働き盛りである40代半ばにしての闘病生活は佐野さん一家の経済面に致命的な打撃を与え、たちまち自転車操業状態に陥ることとなる。必死に家計をやりくりする佐野さんは夫名義での借金も重ねるようになり、見かねた子供たちが借金漬けになるのも時間の問題であった。それから20年以上、佐野さん一家は心の休まる暇もないまま返済地獄を歩み続けてきた。
昨年8月、家族4人で事務所を訪れた佐野さんらは、皆一様に疲弊しきった表情を浮かべており、生気を感じられない状態であった。債務の概要について私の事情聴取が始まると、佐野さんひとりが淡々と借入額・返済日・返済内容を直ちに回答する。彼女の記憶の正確さからは、長い歳月を経ながらすっかり身についてしまった「借金返済」という日常生活が浮き彫りにされるようで、何とも言えぬ異様さが感じられたものである。
聴取の結果、4人の負債合計額は約750万円。しかし長期にわたる取引を考えれば、相当額の過払いが見込まれる事案である。その場で利息制限法の説明をし、「払わなくていい利息は裁判で取り返しましょう」と一家を励ました。折りしも全国では、「払わなくていい利息があります」をキャッチフレーズにした全国クレサラキャラバン活動の真っ最中であり、キャラバンカーが静岡に到達する10月1日には、県青司協での過払い一斉提訴を控えていた。一家の了解の下、直ちに提訴に向けての準備に着手することになった。

A 取引経過の開示請求
早速、取引経過の開示請求に着手するのだが、一方で憔悴しきった一家には何より取立の不安を拭い取ることが肝要であると考え、特定調停申立をあわせて行っている。提訴日までには2回の期日が重ねられたが、開示に非協力的な業者については、引き続き調停期日を重ねることとしたが、この間佐野さん一家には、長期取引であることが立証できるありとあらゆる資料を探してもらい調停委員に提出した。一家の熱心な姿勢と絶対に債務整理を成功させるという思いを汲み取ってか、期日を重ねるごとに調停委員の態度は変化し、債権者への説得にも大変に積極的な姿勢を見せてくれたようである。
しかしながら一方、資料を集めるだけ集め、過払いが判明すると直ちに調停を取下げるという手法の増加は、調停手続への債権者の非協力という、分割返済額の圧縮を目的とする本来の特定調停の実務にも悪影響を与えることが必至である。本件は一斉提訴との関連で一部の業者につき取下げをしているが、調停を利用するのであれば、片面的債務不存在を確認するかたちで調停を終結させたうえで改めて訴訟に移行するといった大局的視野に立った対応が求められよう。

B 提 訴
提訴日までには9件の過払いが判明した。中にはすべてを開示しない業者もあり、このような業者に対しては札幌地判平成13年6月28日(消費者法ニュース49号39頁)を根拠に、不法行為に基づく損害賠償請求をあわせて提訴している。
ここで問題となったのは、高齢で病を抱える佐野さん夫婦が裁判に耐え得る状態ではないことであった。そこで長男の展央さん(35歳,求職中・仮名)を代理人申請するため、簡裁への提訴を選択した。姉の由美子さん(38歳,主婦・仮名)については、損害賠償請求を合算して地裁への提訴を選択している。
地裁・簡裁の選択について、業者が弁護士を選任せざるを得ない地裁を選択することが効果的であると考える。過分な出費を避ける意味で、早期の和解申出がなされるケースが多いし、何より法律も知らず決裁権限もない営業所の社員が出頭する簡裁事件に比べ、直ちに法律論に入ることができるからである。この点は、改正司法書士法が施行された後も何ら変わらないものと思料する。

C キャラバン集会
提訴日の夜、青司協ではキャラバンカー活動の一環として集会を催した。弁護士や商工団体関係者に混じって一般市民も何人か集まる中、展央さんも一斉提訴の原告のひとりとして集会に参加していた。集会では、多重債務問題の現状や金利の話、訴訟を進めていく上での心構えや注意点など、キャッチフレーズの「払わなくていい利息」を基本的な部分から勉強でき、最後には違法と知りながら高利の返済を受け続け、いざ開示請求をすれば極めて不誠実な対応をみせる貸金業者の実態を糾弾し、不当な支払いを強いられた怒りを忘れずに過払い訴訟を闘って行こうとの決意がなされたものである。
原告代表として挨拶に立った展央さんの表情は厳しく、これから始まる訴訟への意欲に満ち溢れていた。2ヶ月ほど前、私が初めてお会いした時の憔悴と不安で生気を失った顔つきは、もうどこにも感じられなかった。

D 和解交渉
口頭弁論がはじまり、早いところでは1回目の期日で和解が成立するものもあった。裁判前の打ち合わせで、全額取り返したとしても18%もの高利を払っているんだということを何度も確認し、あくまでも過払い金全額の返還を目標に掲げた。
展央さんは先の集会での意欲をそのままに、堂々と訴訟を進行していった。私の同席が許されない司法委員主導による和解交渉の場でも、毅然とした態度で自分の主張を述べ、司法委員の執拗な説得にもくじけずに交渉を重ねていった。結果は後掲一覧表のとおり、4社について満額の回収を実現し、その他も1社を除いて95%程度の回収率を残している。

E 不本意な和解
しかしながら、すべてが満足のいく結果ではない。由美子さんとN社の訴訟では、由美子さんが金融機関の過去20年分の取引履歴を取寄せ、N社への返済の事実を立証しているにもかかわらず、N社代理人は「10年以上前の資料はない」の一点張り。回が重ねられた弁論準備手続では、「借りてもいない業者へ返済するわけがない。貸付の事実は被告に立証責任があるはずだから、資料破棄を理由に立証しない被告は損害を賠償すべき」と訴え続けるものの裁判官に一蹴され、やむなく正確な過払い金額が確定できないままに不本意な和解成立を強いられてしまった。

F 判決・強制執行
貸金業者との過払い訴訟は、そのほとんどが和解により決着するのだが、一覧表中L社との訴訟では判決が言渡されている。
L社は過去に会社更生手続の適用を受けた会社であり、訴訟当時はすでに同手続が終結していたものであるが、同社の主張するところを要約すると「原告との取引に過払いがあることは認める。しかし原告は、不当利得返還請求債権につき会社更生手続に基づく債権届出を怠っており、届出のないまま同手続は終結したのだから、もはや被告は免責の効果を受けており同債権は失権している(参考条文,会更241条)」というものである。
L社の主張がまかり通るならば、自ら不当利得返還債権者という多数の債権者を了知していながら、債権者一覧表に記載することもなく、手続参加への機会を保障することもなく、漫然と自身が免責を待つことが容認される結果となり、債権者平等を旨とする倒産手続の趣旨に合致しない。
判決言渡に至るまでの経緯は拙稿「簡裁クレサラ訴訟の実務167頁」「貸金業者の倒産と
過払い金返還訴訟(市民と法15号112頁)」(共に民事法研究会)に詳しいのでここでは避けるが、L社は敗訴判決を受けた後も一向に支払おうとはしないため、最後は口座預金の差押え及んだ次第である。大手貸金業者にあるまじき、極めて不誠実な対応ではないだろうか。

G 事件終結 〜 感想
本年6月、すべての事件が終結した。結果は後掲一覧表にあるとおり、回収額で残債務のすべてを返済し、20年以上に及ぶ佐野さん一家の借金地獄は終わった。調停を継続した業者の中には、最後まで開示に応じない業者もあり、本人訴訟での限界も感じられる部分ではあったが、一家はこの結果に十分な満足を示している。
過払い訴訟の経験がなかった私は、一斉提訴に参加する案件を持ち合わせないことを歯痒く思っていた。しかし、面白いもので事件というのは、こちらが受託したいと念じ勉強を重ねていると、不思議なことにどこかから舞い込んでくるものである。過去の経験でも、初めて日栄訴訟を手掛けたのは共著「戦闘モード商工ローン」の発刊間もないころであったし、個人再生・ヤミ金問題も然り、最近では商法改正の勉強を始めた矢先に、公開予定のベンチャー企業を支援させていただくことになった。
思うにわれわれは、自身の器が巨大であることに気付いていないのではないか。可能性に目を閉ざし、小さい殻の中に閉じこもっているだけでは世界は広がらない。簡裁代理権を半ば取得した今、司法書士が問われるのは実績であり結果である。今後も様々な事件が舞い込んでくるように、可能性を求めて勉強していきたい。

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