小規模個人再生申立・事例報告 

1 事件概要

家族構成・収入状況・借金の金額と約定の返済額・毎月の生活費(最低限必要なもの)は下記の表のとおりです。
借金は「A」・「母」ともに全額がサラ金・信販会社からの借入れであり、10年以上前、働き盛りだった父親が脳梗塞で突然倒れ、医療費や生活費のためにまず「母」が借金を抱え、やがては「A」も生活の手助けのために借入れをおこすようになり、父親が他界した以後も自転車操業を繰り返す日々を強いられてきたものです。
収入だけ見れば、「A」・「母」2人とも安定しており十分生活ができる金額なのですが、毎月の約定返済額は33万円に上り借金が減る目途がまったくつかない状況であり、「A」・「母」共に早急な法的整理が必要とされる案件でした。

家族構成

年齢

職業

1月の手取

ボーナス

負債

約定返済


【申立人】

41歳

正社員

22万

夏18万
冬28万

600万

25万/月

63歳

パート
遺族年金

9万
8万/1月

 

300万

8万/月

22歳

フリーター

12万
【2万円を家計に援助】

 

 

 

世帯合計

40〜42万

 

900万

33万/月

必要経費

家賃

47,000

契約者 : 母

食費

80,000

 

 

 

水道光熱

20,000

 

 

 

電話

10,000

 

 

 

ガソリン

15,000

車の名義 : 子

医療費

10,000

母【定期的な診断が必要】

保険掛金

33,000

 

合  計

約20〜22万

差  引

約20万

返済可能資金(*)

約8万

2 方針決定  

@ 返済可能金額の判断
多重債務に苦しむ相談者の多くは、返済資金を捻出するために家計費をかなり切り詰めていることが一般的です。このため、法的整理の方針決定にあたっては相談者の世帯全体の家計状況をそのまま鵜呑みにするのは危険です。返済から解放された債務者が今までどおりの切り詰めた生活を続けていくのは困難で、多少の余裕を見ておく必要があります。
また、破産を回避し一定金額を支払って借金からの解放を図る方法として特定調停・個人再生がありますが、両者とも3年〜5年間の分割返済を条件とするケースが一般的です。よって方針決定に際しては、3年〜5年間に生じる世帯状況の変化とそれに伴う出費の増大を十分に念頭においておく必要があります(例,出産・子どもの進学、挙式・定年退職など)。本件では、高齢で定期的な通院を強いられている「母」にとって仕事に出かけるのが苦になっているという事実があり、仮にパートをやめれば直ちに世帯全体で9万円の収入減になるという点を考慮し、返済可能資金を1月あたり8万円と設定し(表中の*)、この範囲内に収まるような方針を選択するべきであることを相談者に話しました。
A 「母」破産、「A」小規模個人再生
「母」・「A」共に当初は破産を避けたいという意向でしたが、いつまで働けるのか先行きが不安定な「母」に少なくとも3年間(66歳になるまで)返済を続けることはあまりに履行の可能性が少ないことを説明し、破産申立を選択することになりました。
一方「A」ですが、「母」が破産を選択したことにより、「A」の毎月の返済が概ね8万円に収まるようであれば個人再生の選択が可能となります。そこで「A」は会社員ですから、債権者の同意を必要としない給与所得者等再生の申立を検討したのですが、「A」にはひとりの扶養者もいないことからいわゆる「可処分所得要件」による最低弁済金額が300万円以上となり、3年間で支払うとすると毎月の返済金額だけで85,000円程になってしまうため選択できません。そこで小規模個人再生を選択しました。同手続きの最低返済額は3年間で100万円であり、振込手数料や毎月分割で納めて頂く「A」と「母」の司法書士報酬を合算しても6万円〜7万円程度になるため、十分履行可能性が確保された返済計画を立案することができます。
B 履行可能性を十分に考慮
専門家が介入し法的整理を選択する以上、相談者だけでなく世帯全体が二度と多重債務に陥らないような方針を採らなければなりません。このため私は、特定調停や個人再生を選択するのは余裕をもった返済計画が立てられる案件に留めるように配慮し、履行可能性のない、あるいは少ない計画しか立てられないような場合には、相談者に現実を十分説明した上で破産申立を決心してもらうよう話をします。
もちろん、最終的な決定は相談者に委ねますが、この方針決定を誤ってしまうことが相談者と家族のその後の人生を左右する結果になりかねませんので、最も気をつかう点です。

3 本件の進行状況  

@ 「母」の破産手続
既に破産決定が出され、現在は免責手続中です。
先述のとおり、借入れの原因は亡夫の医療費と生活費ですから免責不許可事由にも該当せず、平成14年のはじめには無事に免責許可決定を得られる予定でおります。
A 「A」の小規模個人再生手続
本件は既に債権調査期間・異議申述期間が満了し、再生計画案も裁判所に提出済みであります。現在は提出した再生計画案に対する債権者の決議が行なわれておりますが、おそらく過半数の同意(消極的同意を含め)が得られるものと思われます。本年12月か、あるいは来年1月あたりから3年間の支払期間がスタートするものと予定しております。
地裁浜松支部では個人再生委員が全件について選任され、その報酬15万円は申立をした翌月から3万円×5回で分割納付するように指導されています。個人再生委員はこの分割納付が無事に完了できるかどうかにより、その後の3年〜5年間の返済が無理なくできるか否かの判断材料としているようです。
「A」もこれまで順調に分割納付を続けており、仮に「母」がパートを辞めたとしてもよっぽどの事態が生じない限りは、無事に再生計画を履行できるのではないかと考えております。


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