消費者契約法B「消費者団体訴訟」って何?

Q 消費者団体訴訟制度というものがスタートしたそうですが、どのような制度ですか?また、事業経営者として注意すべき点があれば教えてください。

A 悪質な勧誘や不当な契約条項によって被害や迷惑を受けた一人ひとりの消費者に代わり、国の認定を受けた適格消費者団体が、事業者による一定の不当行為の差し止めを請求できる制度です。請求に応じない事業者に対しては、適格消費者団体が、消費者を代表して訴訟を起こすことも認められています。
BtoC取引が中心の事業所では、今後は、営業担当者の勧誘方法について社内教育を徹底したり、日頃使用している約款や契約書の条項を見直したりする等、消費者被害の未然防止に寄与する努力が、より一層求められることになるでしょう。

■ 消費者トラブルの実情
独立行政法人国民生活センターの報告によると、平成14年度中に全国の消費生活センターに寄せられた相談の平均被害額は、約734,000円とのことです。相談件数自体は被害全体の一部にすぎませんし、実際に相談にまで踏み切る方は高額被害者に集中する傾向にありますので、1件あたりの被害額はこれを大きく下回ることが容易に予測できます。
被害額が少額であるため、コストと時間をかけてまで裁判による被害回復を図ろうとする消費者は少なく、大多数の消費者は泣き寝入りしているのが実情なのです。
悪質な事業者というのは、このような消費者心理に巧みに付け入り、不当な利益を得ています。契約トラブルに巻き込まれた消費者が泣き寝入りすることにより、本来であれば消費者に返還すべき金額が、不当な利益として悪質業者の手に残ってしまうという実態は、悪質業者の助長を招く大きな要因でもあったのです。
■ 消費者契約法の改正
消費者トラブルは、知識や情報、契約交渉力等のすべてにおいて、事業者と消費者との間に圧倒的格差が存在することに起因します。能力的に不利な立場にある消費者を保護し、被害に巻き込まれた消費者の救済を目的とする「消費者契約法」は、平成13年に施行されて以降、アパート等の敷金返還請求や大学の学納金返還請求等の場面で大いに活用されてきました。
しかし、消費者の泣き寝入りがそのまま悪質業者の不当利益に繋がる現状を打開するには、“被害の未然防止”という観点が不可欠です。このため、悪質業者による勧誘方法や契約条項等を常に監視し、被害を招くおそれのある芽を早期に摘み取るための環境整備が、強く要請されるようになってきたのです。
こうして、改正消費者契約法が平成19年6月から施行され、一人ひとりの消費者に代わり、国から“消費者全体の利益”を追求する活動実績を認められた適格消費者団体が、事業者による不当勧誘や不当条項の使用差し止めを請求できる「消費者団体訴訟」がスタートしたのです。
現在、適格消費者団体として認定されているのは4団体で、他にも複数の団体が認定申請中あるいは申請準備中です。
■ 事業者の対応
差し止め請求の対象となるのは、現在のところ消費者契約法に違反する勧誘方法や契約条項だけですが、既に、訪問販売や通信販売等を規制する「特定商取引法」や、消費者の誤解を招く広告等を規制する「景品表示法」等への適用の検討が進められています。
適格消費者団体のホームページには既に複数の実績が報告されており、「契約の中途解約には応じられません」「解約時の返金には一切応じられません」等の契約条項が、不当な条項として是正申入れされています。いずれも実名が公表されますので、爾後の経営に大きな影響を及ぼすことは必至です。
差し止めの請求を事業者が放置した場合、適格消費者団体は、消費者全体の代表として訴訟を提起することもでき、差し止めを命じる裁判所の判決までをも放置した事業者は、裁判所の定める一定額の金銭について強制執行を甘受しなければならなくなるのです。決して消費者団体訴訟制度を軽視するべきではありません。
消費者との直接取引を行っている事業所では、騙す・脅す・長時間居座る等の不当な勧誘が行われないよう、営業担当者への社内教育やマニュアル作りの徹底が求められます。約款や契約書を利用している事業所では、条項を仔細に検討し、消費者の権利行使を妨げたり事業者に恣意的と考えられたりする条項があれば、早期に見直しや変更等の措置が求められます。
コンプライアンスの徹底は、消費者の強い信頼に繋がることでしょう。

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