破産事例@ 2度目の破産申立 〜 免責不許可か?

免責許可決定から5年目の破産申立て

1 事案の概要
本件の事情聴取の結果は以下のとおりである。申立人は34歳の女性。昭和63年にAと結婚した申立人は、Aが結婚当時から負っていたサラ金からの借金返済と、3人の子供達の生活費のためにアルバイトに励むものの、家計を維持できるような収入はなく自身も多額の借金を負うこととなる。支払不能に陥った申立人は平成7年に破産を申立て、翌8年12月に免責許可決定を得る。
破産申立て後の平成7年4月にAと離婚した申立人は、まだ物心もつかない次女・三女のふたりを引き取りスナックで働き始めるが、やがて常連客のB(離婚経験有り)と同棲生活を始めるようになり、平成10年3月に入籍する。
Bとの同棲生活が始まった頃、Bは勤務先の運送会社で金銭トラブルに巻き込まれたことを契機に独立し、30万円ほどあった手取収入も20万円以下に減ってしまい、そのほとんどはBが先妻との間の3人の子供に支払う養育費に宛てられていた。このため手許にはほとんど残らない状態であり、一家4人の生活は申立人の月々10〜13万円程度の手取収入に頼りきりであった。このような生活を続くなか、申立人の献身的な働きぶりは皮肉にもBに「生活費は申立人が出すのが当たり前」という感覚を身につけさせることになってしまったようである。入籍後しばらくすると、教育費の増加などで家計管理が次第に大変になってくるのだが、同棲生活でしみついた「生活費は申立人」というBの感覚は、自身の事業が次第に軌道に乗ってこようと一向に変わることがなく、申立人がBに生活費の相談をするたびBは極めて不機嫌になり、離婚話を口にするようなこともあった。Aとの離婚当時まだ幼かった2人の子供はBを実の父と信じて成長してきたため、申立人は子供達のためにも2回目の離婚は絶対に避けたいと強く決心しており、このためそれ以後、申立人はBに生活費の話を持ちかけることが怖くなり、生活費に窮するとその都度Bに申し出、せいぜい1、2万円を与えられるという甚だ尋常とは思えない夫婦関係が続いていたものであった。
そんな生活の続いていた平成11年夏、申立人は子供用の学習教材の訪問販売を受ける。興味を示し「やりたい!」とせがむ子供の望みを断ることもできず、かといって余裕資金など一切持たなかった申立人は、80万円のローンを申込む。過去に破産・免責の経験がある申立人が審査に通るかどうかは半信半疑であったが、再婚により姓が変わっていたために審査がとおり、ローンを組むことができたものである。しかしながら平成12年になると長年の疲労堆積と家計管理のストレスが原因で「過換気症候群」を患い、治療費や自身の収入の減少によりますます家計が圧迫されていく。それでも、先の「離婚」が頭を強くよぎるために申立人はBに金銭面での相談ができず、やむにやまれぬ思いで再びサラ金の借入れに手を出してしまい、以後、自転車操業状態に陥るのにさほどの時間を要さなかったものである。
負債総額が400万円を超えた状況では、2度目の破産申立てに踏み切るほかに経済的更生の手段はないものと判断し、先の免責許可決定から数えて5年目に2度目の破産を申立てた次第である。

2 2度目の破産と裁量免責
破産法第366条の9には免責不許可事由を限定列挙されている。本件のケースもまた「破産者が免責の申立て前10年以内に免責許可決定を得ている場合」に該当するが、条文上は「免責不許可の決定を為すことを得」とあるのであり、ケースによっては裁判官の裁量による免責許可決定が受けられる事案も多い。
そもそも、破産法が免責許可決定から10年以内の破産申立てを免責不許可事由としているのは、「借り逃げ」「破産太り」などと揶揄されるモラルハザードを防止する趣旨であると考えられるところ、破産申立てに及ぶ者のほとんどがいわゆる低所得者層であり、破産申立て後も決して生活にゆとりが持てる者は多くないのが現実であるし、さらに近年の貸金業者による顧客拡大路線やヤミ金融の跋扈により、破産経験者までもが貸付のターゲットとなっている現状をもあわせ考えれば、単に2度目との理由で破産申立てを躊躇する理由にはならない。
本件もまた2度目の破産申立てであったが、生活費の不足に一切の理解を示さないどころかかえって暴力をふるう夫との生活を、子供のために離婚は何としても避けたいとの一心で耐え続けた結果、蓄積したストレスが原因で病を患うことになるという生活環境や、借金の原因が子供の教育費捻出であったという事情を考慮すれば、やむを得ない借金であったといえるのではないかと考え、詳細に事情をまとめたうえで申立てをした。結果本件では、負債総額400万円以上に対し33万円の配当を条件に免責許可決定が出された。家族に内緒であったため、33万円の配当金についても申立人の月々の収入から27,500円ずつ1年間かけて積立をし、実母以外の誰にも知られることなく事件は終結している。

3 法律家の役割
われわれが扱う生の事件は、時として法的に問題を抱えた事件であったり、原則を貫くことができない事件であったりすることが往々にして存在する。このような際に、われわれには破産者の経済的更生実現のために採り得る選択肢(もちろん法的裏づけのある選択肢に限定される)のすべてを駆使する工夫が求められるのではないか。
本件において、再び多重債務に陥った経緯の詳細は、免責許可の判断において極めて重要な検討事項である。免責不許可事由に該当するという法律上の障害をクリアするためには、十分な面談のための時間を割き、具体的な事実を積み上げていくことにより借入れがやむを得ない事情によるものであったことを詳細に聴き取り、克明に申立書なり上申書なりにまとめることで裁判官にも申立人の背景事情を伝える工夫が必要となる。
この点が、破産申立てに法律専門化が関わるべき最大の理由ではなかろうか。年間16万件の破産申立てがなされているが、未だにその多くは法律家の関与のない純粋な本人申立てだそうである。われわれが普段相談を受ける多重債務者の多くは、自分自身で理路整然と文章を書けるような方は少なく、字すら十分に書くことのできないような者が非常に多い。このような債務者による申立書が免責許可・不許可の唯一の判断材料になるのであるから、不必要な一部配当事件や不相当な免責不許可事件が多数に上ることも想像に難くない。
仮に私が「2度目」という理由で受託を断っていれば、今ごろは借金も膨れ上がり家庭も崩壊しているかもしれない。


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