初めての労働事件

初めての労働事件
1 はじめに 
未払賃金や解雇等のいわゆる労働事件は、過去に相談を受けたことはありますが事件として受任に至るのは今回が初めてです。現在、訴訟提起中ですが、提訴に際しては、請求金額を確定するのに苦労しました。知人の社会保険労務士の助言を受けたり、赤松茂さん(沼津支部)の著書『実践簡裁民事訴訟』(民事法研究会)の250頁以下を参考にしたりしながら、自分なりの解答を出してみました。
以下では、算定の考え方をご紹介します。会員の皆さんも、自分なりの請求金額を算定してみてください。また、私の計算に誤りがあれば、ぜひご指摘ください。なお、紙面の都合上、解説が不十分で分かりづらい点もあるかと思われます。ご不明な点は、中里までお問い合わせください。
2 事案の概要 
相談者の主な仕事内容は、荒地を耕して農業に適した土地とする業務。ハローワークを通じて平成22年6月日不詳から勤務を始め、同年12月25日、突然に解雇を告げられたという事案です。
主な労働条件は、以下のとおり。

賃金 日給1万円のほか、通勤手当・資格手当・能力手当として各月額1万円
賃金の締日 毎月20日(但し、H22.9.21以降は毎月25日に変更)
賃金の支払日 同月末日(但し、H22.9.21以降は翌月10日に変更)
勤務時間 午前8時から午後5時(内、休憩1時間)
雇用期間 定めなし
出勤状況 解雇前数ヶ月間分につき、下表のとおり


期間

出勤日

残業

遅刻早退

賃金の支払状況

H22.8.21〜9.20

25日

1時間

8時間

27万1562円(支払済)

9.21〜9.25

4日

0時間

6時間

 6万2500円(支払済)

9.26〜10.25

21日

1時間

0時間

24万1562円(支払済)

10.26〜11.25

26日

0時間

7時間

(4万円のみ支払済)

11.26〜12.25

21日

0.5時間

0時間

(未払)

 

 

 

 

 



3 訴訟物の確定 
訴訟物は下記のとおりとした。もちろん、違法解雇であるから、解雇無効を主張して提訴日までの賃金請求をする方法も考えられる。各自ご検討ください。
(1)未払賃金請求権(民623。※時間外割増賃金を含む)及び遅延損害金
(2)解雇予告手当請求権(労基20)及び遅延損害金
(3)付加金請求権(労基114)
4 請求金額の算定(1)〜 未払賃金 
表のとおり、10.26〜12.25の賃金から支払い済みの4万円を控除した額が未払いであり、請求金額は以下のとおり48万2031円及びこれに対する遅延損害金となります。遅延損害金の起算日及び根拠法にご注意ください。
なお、遅刻早退分について、ケースによっては「使用者の責めに帰すべき事由による休業」と評価できる場合もあり、この場合には休業手当の請求ができると構成することもできますが(労基26)、本件では請求していません。
10.26〜11.25分
ア・基本給:25万1250円(出勤日26日×1万円−1万円÷8時間×7時間(遅刻早退減額分))−4万円(既払い)
イ・通勤手当、資格手当及び能力手当:3万円
ウ・アイ合計24万1250円に対するH22.12.11〜12.25(解雇日)まで年6%(商514)、12.26〜支払い済みまで年14.6%(賃金支払6T)の割合による遅延損害金
11.26〜12.25分
ア・基本給:21万円(出勤日21日×1万円)
イ・時間外割増賃金:781円(日給1万円÷8時間×1.25×0.5時間(労基37、規則19TA、割増賃金令)。1円未満四捨五入)
ウ・通勤手当、資格手当及び能力手当:3万円
エ・アイウ合計24万0781円に対するH23.1.11〜支払い済みまで年14.6%の割合による遅延損害金
5 請求金額の算定(2)〜 解雇予告手当 
解雇予告手当の額は、平均賃金(労基12)を算定することによって求められます(労基20T)。
平均賃金算定事由の発生日はH22.12.25(解雇日)ですから、平均賃金算定期間は、同日の直前の賃金の締日である11.25以前3ヶ月となりますが(労基12TU)、本件では、同期間中に賃金の締日に変更があったため、8.21〜11.25の97日間となるそうです(S25.12.28労働基準局長通達第3802号。社労士の助言により判明しました)。
同97日間の労働状況は表のとおりであり、8.21〜10.25の支払い済み賃金の額は妥当であると考えられます。そうすると、平均賃金の額は以下のとおり26万5012円(1円未満切り捨て)となります。
85万6874円(27万1562円+6万2500円+24万1562円+28万1250円(但し、一部未払い)÷97日×30日
したがって、請求金額は26万5012円及びこれに対するH22.12.26から支払い済みまで年14.6%の割合による遅延損害金となります。ここでも、遅延損害金の起算日にはご注意ください。
6 請求金額の算定(3)〜 付加金 
最後の付加金請求権は、時間外割増賃金分781円と解雇予告手当分26万5012円の合計である26万5793円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払い済みまで年5%(民404)の割合による遅延損害金となります。
なお、付加金は労働者の請求により裁判所が使用者に対し支払いを命じるものであるため(労基114)、判決の確定により使用者に支払い義務が生じます。このため、付加金請求権に仮執行宣言を付することはできないと解されていますし、遅延損害金は判決確定日の翌日から民事法定利率によって算定される点にもご注意ください。
また、浜松簡裁では、付加金は訴訟物の価額に含まれませんでした(裁判所により扱いが異なるようです)。
7 まとめ 
最後にまとめとして、訴状の「よって書き」の部分を掲載して終わりとします。
*********************(以下、訴状抜粋)**********************
よって、原告は被告に対し、本件雇用契約に基づき、以下の各支払いを求めるために本訴えを提起する。
(1)平成22年11月分の未払賃金として、金24万1250円。
(2)同年12月分の未払賃金として、金24万円。
(3)同年12月分の未払時間外割増賃金として、金781円。
(4)(1)に対する平成22年12月11日から解雇日である同年12月25日まで商法所定の年6%の割合による遅延損害金として、金594円。
(5)(1)に対する解雇の翌日である平成22年12月26日から支払い済みまで賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金。
(6)(2)及び(3)の合計額である金24万0781円に対する平成23年1月11日から支払い済みまで年14.6%の割合による遅延損害金。
(7)解雇予告手当として、金26万5012円。
(8)(7)に対する解雇の翌日である平成22年12月26日から支払い済みまで賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金。
(9)(3)及び(7)の付加金として、金26万5793円。
(10)(9)に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金。

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