財産分与と否認(月報司法書士10月号 特集登記業務と破産否認の相関 掲載)

 財産分与と否認
                             静岡県司法書士会 中 里  功

 1 序論 〜 質の変容を迎えた破産事件  

 筆者は最近、破産申立書作成業務の「質の変容」を強く感じている。司法書士が破産申立書の作成に携わるようになって久しいが、いわゆる「過払いブーム」が終焉を迎える数年前まで、その多くが消費者破産事件であり、かつ債権者のほとんどを貸金業者が占め、相談者には見るべき資産もほとんどない典型的な同時廃止型の破産事件であった。しかしここ数年、筆者が受託した破産申立書作成業務は、統計を取ったわけではないが事業者破産が過半数を占めているように感じる。
事業者の破産事件では、通知ひとつで取立てが止む貸金業者だけが債権者となるわけではなく、取引先や従業員など依頼者の破産申立てによって直ちに自身の経営や生活に甚大な影響が生じる債権者も多数に上る。また、債権者数も数十人に上るケースは珍しくないため、迅速かつ内密に破産申立てを実現させなければならない。資産にしても、不動産はもとより売掛債権、在庫、機械器具、什器備品などと多岐にわたるほか、商売上の付き合いから始まった積立預金や各種保険契約等も複数口にわたるケースは少なくなく、その全容を把握することにはしばしば困難が伴う。
このように、事業者破産事件では、消費者破産事件においてあまり問題とならないようなさまざまな論点に対応しなければならない。無論、個人事業主からの依頼だけでなく会社経営者からの依頼もあるため、会社の破産手続きに関する知識やノウハウも習得しなければならないのである。
ところで、破産申立書作成の依頼を受ける際には、単に破産申立書を作成して裁判所に提出すればよいわけではなく、「債権者平等性の確保」「資産の散逸防止」という破産法の要請に適う申立てをすべきであることは論を待たない。この点は消費者破産事件でも同様であるが、そのほとんどが同時廃止により終結する消費者破産事件とは異なり、破産管財人の下で公正に資産を換価し、多数の債権者の利害関係を調整しながら進められる事業者破産事件において前記のふたつの要請に応えるためには、破産法の各条文、中でも破産手続法への深い理解が不可欠となる。
とりわけ、本稿のテーマである「否認」については、私たち司法書士が否認の制度や趣旨を正確に理解するだけでなく、依頼者に対しても否認対象行為をさせないように細心の注意を払う必要があるものと考える。
 というのも、人生そのものともいえる事業継続を断念する選択を迫られた依頼者は、通常の精神状態ではあり得ない。家族の将来を思い、一定の資産を家族名義に変更して換価を免れようとするかもしれない。保証人に迷惑をかけまいと、一部の債権者だけに密かに支払いをするかもしれない。連鎖倒産の危機を迎える取引先が、換価可能な資産を持ち逃げすることを黙認するかもしれない。
 しかしこれらの行為は、「債権者平等性の確保」「資産の散逸防止」という破産法の理念を逸脱する行為である。後日、破産管財人から否認権を行使される可能性があることや、場合によっては詐欺破産罪などの犯罪を構成する可能性があることを依頼者に理解させて公正な破産申立てにつなげるために、司法書士は単に依頼された申立書を作成すればよいのではなく、とかく横道にそれがちな依頼者に対し破産申立ての「王道」を堂々と歩ませるように法的支援をすべきであろう。
この点は、代理権の有無に関係なく、破産申立てに携わる専門職として求められる当然の要請である。破産申立書作成業務の質が変容する中、かつてのような消費者破産事件と同じ感覚で受託を続けることは危険であり、改めて破産法を勉強し直す時期が来ているものと強く感じている。その意味でも、「否認」を特集のテーマとして取り上げた月報発行委員会の企画を賞賛したい。

2 とある事案から・・・

 彼もまた、会社を経営する一人だった。金物工事の職人として修行を積んだ彼は、仲間と共に若くして会社を立ち上げ、常に現場の先頭に立って陣頭指揮をとってきた。好景気を背景に受注は右肩上がりを続けたが、皮肉なことに注文に追われる毎日を過ごすあまり、会社としての将来をじっくりと考える時間的余裕が、彼にはなかった。現場主義といえば聞こえはよいが、たたき上げの社長が経理面や営業面での経営戦略を欠くケースはしばしば目にする。彼の会社も例外ではなく、世の中に不況風が吹き始めて数年が経過した頃には、彼の会社は自転車操業から抜け出すことができない状態に陥っていたのだ。
 しかし彼は、妻と二人の子供だけは路頭に迷わせてはならないという強いプライドを持っていた。このため、どんなに経営が苦しくても、毎月決まった生活費だけは妻に管理させていた彼名義の銀行口座に振り込み続けていた(振込額は月額40万円)。決まった生活費を納め続けることは、彼にとって使命のようなものとなっていたのだった。
 彼と妻が離婚することとなった原因は、彼の不倫だった。離婚に伴い、彼名義の自宅は妻に財産分与した。もっとも、まだ彼名義の住宅ローンが残っていたため、抵当権を外すため義父が残金全額を立替払いしている。
 生活費を納めることに使命感を抱き事業継続にもがき苦しんできた彼の緊張の糸は、離婚によりその必要がなくなった途端にぷつりと切れてしまう。家族の生活を守るという拠り所を失った彼が破産申立てを決意するまでには、半年もかからなかったのだ。

3 破産申立て前の財産分与

 この事案の破産申立てはある年の7月であり、代表者である彼はその年の1月に妻と協議離婚した。同時に自宅の所有権も財産分与を原因として妻に移転し、その旨の登記も経ていた。財産分与当時の自宅(土地・建物)の時価は2000万円程度、抵当権が設定された住宅ローンの残額は1300万円程度で、実質的な資産的価値は700万円程度である。なお、住宅ローンについては、財産分与に際して義父が肩代わりをして一括返済している。
そこで、破産申立てにあたっては、申立てからわずか半年前に行われた住宅の財産分与が、否認対象行為となるか否かを検討しなければならない。
(1)財産分与の法的性質
 離婚をした者の一方は、相手方に対し財産分与を請求する権利を有している(民768条)。一般に、財産分与の法的性質としては、@離婚時における夫婦財産関係の清算、A離婚後の扶養(離婚後における相手方の生計維持のための補償)を含むとされるから、この範囲内での財産分与は離婚当事者に認められた当然の権利行使であり、否認対象行為には該当しないのが原則である。
 しかし、財産分与に仮託して、財産分与として通常認められる範囲を超えた財産処分行為が行われたと評価される場合には、当該財産分与は否認対象行為となるため、注意が必要である。無論、離婚の実体が伴っていないにもかかわらず、仮装的に離婚届だけを提出してする財産分与など、論外である。
 ところで財産分与には、前記@Aのほかにも、B「離婚そのものによる慰謝料」としての性質をも含むと説明される。
 離婚原因に該当する一方当事者の個々の行為が他方に対する不法行為を構成する場合、相手方に慰謝料請求が認められることは論を待たない。しかし、ここにいう不法行為損害賠償請求としての慰謝料と、財産分与の一部として認められる「離婚そのものによる慰謝料」とは、区別する必要があるのだ。
たとえば、離婚原因に該当する一方当事者の有責かつ不法な行為が存在するが、それ自体が不法行為を構成するとまではいえないようなケースにおいては、当該行為によって相手方が離婚するにやむなき状況に至ったことで精神的苦痛を被った場合、行為者はいわゆる「離婚慰謝料」の支払いを免れないと考えられているのである(最判昭31・2・21民集10巻2号124頁、最判昭46・7・23民集25巻5号805頁)。
 前記Bの要素を含んだ財産分与が行われた場合、その後の破産手続きにおいて、財産分与に仮託した過大な財産処分があったものとして否認権を行使される可能性もある。
 しかし、分与者が有責配偶者でありかつ有責行為に対する慰謝料が支払われていないような事情が認められる場合には、当該財産処分には「離婚慰謝料」が含まれると解するべきである。
ことに分与者がその後に破産申立てに至るような事案では、財産分与当時すでに分与者の資力が悪化しており、処分可能な預貯金等が存在しないケースは少なくない。そうすると相手方が、慰謝料として金銭の支払いを受けられないことに代え、主に住宅等の不動産を財産分与として譲り受けることにより慰謝料を加味した解決を図ろうと考えることには、むしろ合理性がある。
したがってこのようなケースでは、不相当な財産処分行為として当該財産分与を直ちに否定することは、相当ではないのである(最判昭58・12・19民集37巻10号1532頁)。
(2)裁判例の検討
以下、参考までに財産分与の詐害性が争われたいくつかの裁判例を紹介するが、どの裁判例も離婚原因、婚姻期間、家族構成や収入状況、分与の対象となる財産の価値、負債総額、分与前後の分与者の資力の状況、負債に対する受益者の関与の状況等、さまざまな要因を総合的に勘案して判断が下されているため、どの程度の財産分与が過大、不相当と評価されるのかを、一概に整理することは困難である。
 実際の検討にあたっては、各判決文を丁寧に分析する必要があることを指摘しておく。
ア 詐害性否定
 詐害行為性が否定された裁判例としては、@離婚当時、夫の有していためぼしい資産が住宅(時価2300万円)だけであるのに対し、5000万円以上の負債を負っていて債務超過が明らかな状態の下、住宅を妻に財産分与した事案(大阪地判昭54・10・30家月32巻9号53頁)、A夫の唯一の財産である住宅を、抵当権で担保された被担保債権を妻が引き受けることを条件に財産分与した事案(慰謝料的要素も加味されている)。債権者からは「被担保債権を考慮した実質的価値が過去の20年以上の夫婦間の平均財産分与・慰謝料支払額の2倍以上となっており過大である」との反論がなされたが、裁判所は詐害性を認めなかった(大阪地判昭61・6・26判時報1220号114頁)、B夫の唯一の資産である住宅が財産分与されたのは、2回目の手形不渡りを出して倒産した2年後のこと。夫は分与対象財産を売却して返済資金に充てる意向であることを債権者に表明していたが、当時からすでに別居状態であった妻はその事実を知らなかった事案(京都地判平10・3・6)などがある。
イ 詐害性肯定
 一方、詐害行為性が肯定された裁判例としては、@2回目の手形不渡りを出して倒産した会社の代表者が、倒産の半年後、離婚慰謝料としての性質を加味した財産分与として、会社の監査役を務めていた妻に対し、住宅と住宅に隣接する売却予定地とをあわせて分与した事案(時価5500万円)で、売却予定地についてのみ財産分与が取り消された事案(福岡高判平2・2・27判時1359号66頁)、A離婚することに合意していた夫から妻に対し、2回にわたり住宅が贈与された事案。1回目の贈与の際には多額の負債はあるものの債務超過には陥っていなかったが、2回目の贈与の際には債務超過に陥っていることを妻も認識していた事案で、2回目の贈与が取り消された(浦和地判平5・11・24金融商事945号34頁)などがある。
(2)破産法160条の該当性
ア 160条の構造
 以上のとおり、分与財産が過大・不相当であり、財産分与に仮託してなされた財産処分行為と評価される場合には、当該財産分与が破産管財人により否認される可能性がある。
しかし、たとえこのような財産分与であっても、それが破産法160条の要件に該当するか否かについては、さらに検討を要する。
 破産法160条1項は、@破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(故意否認)、A破産者に支払停止(同15条2項)や破産申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(危機否認)のいずれかの行為のうち、担保の供与または債務の消滅に関する行為を除く行為を否認対象行為と規定している(担保の供与と債務の消滅行為が除外されているのは、これらについて破産法162条に特則が設けられているからである)。
 なお、故意否認の場合は受益者が行為の時に破産債権者を害することを知らなかった場合、危機否認の場合は受益者が行為のときに支払停止や破産申立てがあったこと及び破産債権者を害することを知らなかった場合はいずれも否認が認められず(同条1項各号但書)、その立証責任は受益者が負担する。
また、破産者が支払停止や破産申立てがあった後またはその前6か月の間にした無償行為や、無償行為と同視できるような有償行為もまた、否認権の対象となる(同条3項)。
イ 受益者の認識
 破産法160条の条文と先の裁判例とを見比べると、受益者が詐害の事実を認識している(あるいは認識しうる状況にある)か否かという点がひとつの重要な判断材料となっていることに気づくだろう。
 同様に売却予定地を住宅と共に財産分与した事案で、先の否定裁判例Bが別居状態の妻に対する財産分与であったのに対し、肯定裁判例@では、夫が経営する会社の監査役を務め、夫の資産状況についても容易に知り得る立場にあった妻に対する財産分与である点が結論を分けた大きな要素となっているものと推測される。また、肯定裁判例Aでは、債務超過に陥っていたか否かの要素に加え、受益者である妻が債務超過の事実を認識していたか否かによって、1回目の贈与と2回目の贈与の結論が異なっているのである。

4 事案の検討

 以上の考察を前提に、先に掲げた彼の事案が否認対象行為に該当するか否かを検討してみよう。
 彼から妻に分与された財産の実質的価値は700万円であるが、離婚に伴う養育費の定めがないことから、少なくとも子供に対しては、相当程度の離婚後の生活補償をする必要性が認められることや、離婚原因が彼の不貞にある一方、慰謝料として支払うべき金銭がないことから、財産分与には慰謝料としての要素も加味されていると考えられることを考慮すれば、必ずしも過大・不相当な財産分与であったとはいえない。
 過去の裁判例と比較検討してもこの結論は妥当と考えるが、仮に当該分与が過大・不相当と評価されたとした場合、破産管財人により否認されるべき行為であるか否かについて、なお検討する。
 彼から受益者である妻への財産分与は破産申立てのわずか半年前である。財産分与が行われた少し前から彼の会社はすでに赤字に転落していたが、彼にとっては家族や従業員を路頭に迷わすことはできないというプレッシャーを強く感じていた時期であり、日々資金繰りに頭を悩ませていた時期でもある。このことは、彼が妻と協議離婚した後もなお、資金繰りのためにメインバンクに対し追加融資の依頼をしているという事実からも裏付けられる。結果的に、この時に融資を受けられないことが確定的になったその年の6月になって、彼ははじめて破産申立てを決意するに至ったのである。
したがって、財産分与の当時、破産債権者を害することを知っていないから故意否認対象行為(破160条1項1号)には該当せず、また支払停止の事実も存しないから危機否認対象行為(同項2号)にも該当しない。
 もっとも、主観的には破産債権者を害することを知らなくとも、客観的にそのような事情が存していたと評価されうる場合には、故意否認対象行為に該当する可能性も残る。しかし、仮に彼自身にそのように評価されるべきやむを得ない客観的事実が存在したとしても、少なくとも彼は、受益者である妻に対し生活費の心配をさせたくないとの思いから一貫して会社の経営状況について妻に知らせたことはなく、毎月決まった生活費を所定の銀行口座に振り込み続けていたのであるから、妻としては会社が赤字に陥っているとはおよそ想像し得ない。
 したがって、財産分与の当時、受益者である妻が破産債権者を害することを知る由もないのであるから、やはり故意否認対象行為には該当しない(同条1項1号但書)。
以上のとおり、仮に彼がした住宅の財産分与が過大・不相当な財産処分行為と評価されたとしても、否認対象行為には該当しないと結論付けることができるだろう。
なお、裁判所に提出した上申書を参考までに掲載しておく。


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    平成 ●年(フ)第●●号
                           上 申 書
    平成●年●月●日
    ■■地方裁判所■■支部 御中
                                  申立人  ■  ■  ■  ■ 

頭書事件につき、申立人(以下、「私」)が元妻・A美との間の協議離婚に伴い、平成●年●月に行った当時の自宅(土地建物)を目的物とする財産分与に関し、下記のとおり上申します。

                       記
1 私とA美とは、私の浮気が原因で平成●年●月に離婚に至りましたが、家族の生活を支えなければならないという気持ちは、浮気をしている時であっても変わることはありませんでした。
私が生活費をきちんと確保しなければ、住宅ローンも払えなくなるし、子供たちの学費の支払いにも困ってしまうことになるので、仕事に対する危機感はいつも感じていました。
2 もともと私は、家族にお金のことで心配をかけさせたくないという配慮から、A美に対し、会社の経営状況について話をすることほとんどありませんでした。
私は毎月の役員報酬を2口座に分け、内1口座を生活費としてA美に預けていました。生活費として振り込む金額は、協議離婚に至るまで一度も変更したことはありませんので、A美は、私の経営する会社が破産申立てをしなければならない程に経営状況が悪化しているとは、つい最近までまったく予想すらしていなかったものと思われます。
3 しかし実際には、協議離婚及び財産分与がなされた当時、私が経営する株式会社■■■■の経営状況はすでに赤字に転落していましたので、私は、家族の生活を路頭に迷わせることはできないというプレッシャーを強く感じながらも、代表者として資金繰りに頭を悩ませる毎日でした。
したがって、当時の私は経営継続のために資金を繋ぐことに必死の思いであり、会社を破産させることなど思いもよらない状態だったのです。
4 ところが、A美との協議離婚が成立し、一人暮らしを始めるようになった平成●年●月以降、家族を支えるという緊張の糸が切れ、私の生活は急激に堕落し、仕事が終わると毎日のようにパチンコに出掛けては暇を持て余す生活が始まりました。
家族と離れ、また浮気相手とも別れ、それだけでなく、別れ話のもつれが原因で浮気相手からは頻繁に電話による罵詈雑言や金銭の要求を受けるような日が続き、私は疲弊の極みにある精神状態から解放されるため、ますますパチンコにはまっていくこととなってしまいました。
5 このような精神状態の中、それでも平成●年●〜●月にはさらなる融資に応じてもらうため、メインバンクの■■銀行に相談を持ちかけ、同銀行の担当者にも何らかの方法が取れないかを調査してもらう努力を続けてきましたが、家族を支えるという私の一番の精神的よりどころを失った以後となっては、経営や資金繰りに必死になっていた私の事業継続への思いも薄れるようになり、その結果として破産申立てに及ばざるを得ない程に経営継続が困難な状況に陥ったものです。
6 なお、協議離婚は完全な夫婦関係の破綻によるものであり、離婚が成立した後、住宅ローンをA美の父に立て替えてもらい抵当権の抹消登記手続きをした際、その事務処理のやり取り等でA美と接触をしたほかは、子供のことでやはり数度連絡を取っただけでそれ以外についての接触は一切なく、私自身も復縁を望む気持ちはまったくなく、客観的にも到底復縁を望むことはできない状況です。
以 上
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5 まとめ
 本稿は、破産申立書作成の依頼を受けた司法書士が、依頼者の行うあるいはすでに行った財産分与について、それが否認対象行為となるか否かを検討する際の論点整理を試みたものであるが、このような視点によって個々の財産分与という行為を評価することは、登記業務においても同様に重要である。
 私たち司法書士は、財産分与(あるいは夫婦間贈与も同様の問題を孕む)を原因とする所有権移転登記の依頼を受ける際、本稿で考察したような検討をしているだろうか?態様や状況によっては、分与の効力が取り消されたり否認されたりするおそれがあることを、依頼者は理解できているだろうか?
 破産法は、破産申立書作成業務を取り扱う司法書士だけが知っていればよい法律ではない。不動産登記は取引社会を支える重要なひとつのツールであり、取引社会にとって倒産は不可避である。であれば、すべての司法書士にとって破産法は自ずと必須の研究課題であるはずだ。
 本稿が、読者にとって改めて破産法を見直す機会となれば幸いである。

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