貸金業法改正運動@ データが語る借金地獄の実態

データが語る借金地獄の実態

私の所属する日司連・消費者法制検討委員会では、本年3月より、平成19年1月に予定されている出資法上限金利の見直しに向け、日弁連・消費者問題対策委員会倒産法部会との共同委員会が継続的に開催されています。
私に与えられた研究テーマは「消費者信用市場では市場原理が機能しない」ことの実証ですが、様々なデータを分析する過程で、大変に興味深い結論にたどり着くことができましたので、レポートにまとめます。
なお、本レポートは、さらに一層の加筆修正を経て、日司連より発行される小冊子に掲載する予定です。よりよいレポートとするために、会員皆様のご意見をお待ちいたします。
* 引用する参考資料は以下のとおりですが、紙面の関係上、詳細なデータの掲載は、上記小冊子に譲ることとします。         
@ 平成15年版消費者金融白書            
A 平成16年版貸金業白書              
B カードローン情報局ホームページ          
C 平成16年度版大手サラ金4社の有価証券報告書   
忘れない内に・・・ 次回は、西部で頑張っている原田和代さんにバトンタッチします。

1・業者の選択理由
資金需要者に対し「貸金業者を選択する理由」をアンケートした結果によると、上位は「無担保・無保証で融資を受けられる」「審査スピードが早い」」「困ったときに借り入れができた」「自分の都合に合わせた返済ができる」等、利便性に注目が集まる(資料@)。別の調査でも「手続き(審査)が簡単」「必要なときに即時に利用できる」「利用できるATM、CDがたくさんある」等、同様の結果が示されており(資料A)、いずれの調査でも「低金利」を選択理由に挙げる資金需要者は少ない。
この結果それ自体には、皆さんもさほどの違和感を持たないであろう。日々接する相談者の多くは、概して金利に無頓着であり、自身がどれだけの利息を払っているのか把握している債務者は希少である。私自身も「借りられさえすれば金利は何%でも構わないのだろう」程度の認識しか持っていなかった。
2・本当に、金利には無関心?
では、多重債務者の多くは、本当に金利に関心がないのであろうか?
先の私の認識は、ある相談者によって変えさせられたのだった。
彼はよくいる多重債務者のひとりだが、他の相談者と違うのは、金利に非常に高い関心を示しており、自身で業者と交渉し、またよりよい条件の貸出先を求めて借換えを繰り返しており、借入先の8割以上が利息制限法所定金利での債務であった。その中には、通常であればおよそそのような低利での貸出しは考えられない業者も含まれていた。
彼曰く「最初は金利を下げることに応じる素振りも見せなかった業者も、低金利の業者を選んで借換えを持ちかけたり、よその貸出先と競合させたりすることで、次第に金利は下がっていった」とのこと。無論、収入条件等の他の要因にも左右されるだろうが、債務者自身が金利に関心をもち、交渉を繰り返すことで、貸出金利は下がるのである。その意味では、市場原理がまったく機能しないとの回答は誤りである。
彼が特別なのだろうか?いや、おそらくそうではあるまい。およそ生活者であれば、物を購入しサービスの提供を受けるにあたっては、「より安く」を常に最大の関心ごとのひとつとして考慮しているはずである。困窮を強いられている多重債務者であればなおさらであろう。ではなぜ、金を借りる際に、最大の関心事のひとつであるはずの価格、すなわち「金利」で、借入先を選択しないのだろうか?
3・貸金業者の戦略
その答えは、貸金業者の営業戦略を分析することで浮き彫りにされる。
貸金業者に対する「新規顧客獲得のための施策」に関するアンケート結果によると、「接客対応の向上」「販促方法の見直し」「販促内容の見直し」等、上位には利便性の向上が続く。借主の関心事であるはずの「金利の低下」は4位であった(資料A)。
ここに、もうひとつ興味深い資料がある。資料Bは各貸金業者のキャッチコピーを取りまとめたホームページであるが、これによると金利を売りにする貸金業者は僅少であり、「お申し込みからお振込みまで最短30分で完了!」(プロミス)、「約10秒で審査結果をお知らせ!」(ほのぼのレイク)、「夜申し込んで翌日中にはお振込み!」(アイク)等、貸金業者が利便性の強調に躍起になっている事実が裏付けられる。さらに、各貸金業者のホームページに当たってみると、トップページに金利が謳われている会社は極めて少ない事実も判明する。
なぜこのような結果が生ずるのか?貸金業者は、「低金利」では顧客が集まらないと判断しているのか?否、消費者の関心が「より安く」に集まっていることは周知の事実である。推測の域を出ないが、貸金業者は意図的に金利を競争の材料とすることを避けているのだと考える。他の市場において、価格低下が需要を喚起する重要な要素であるのに、消費者信用市場だけがその例外であることを説得力もって説明した論は存在しないし、銀行系貸金業者であるモビット,東京三菱キャッシュワンなどのホームページは、金利で他社との差別化を図ろうという趣旨が読み取れる構成となっているのだ。
さらに、テレビCMを通じたイメージと認知度の向上は、資金需要者にする「大手の会社で安心できる」という刷り込みに寄与した(資料A)。資金需要者は、近くにあり、簡単に借りられ、よく知っている業者であれば、「安心して(「返済可能な金利である」という意味を含む)」借りられるとの誤解の下、契約締結に至るのである。
貸金業者が金利での競争を避ける理由は、それによる薄利化への懸念にほかならないだろう。結局、債務者は、利便性に偏重する貸金業者の営業姿勢にまんまと乗せられているのだ。借入先を選択しようにも、どの会社から提供される情報も利便性に集中し、金利については僅かばかりの情報が与えられるにすぎない。すなわち債務者は、最大利益の追求という貸金業者の営業戦略のもと、契約締結の重要な要素である金利について充分な情報を知らされず、また知る機会を奪われ、契約させられているのである。
まさに「借りる」のではなく「借りさせられる」現実が存在しているのだ。
4・貸金業者は有用か?
「借りさせられた」債務者に対し、次に貸金業者は「借りさせ続ける」ことにエネルギーを注ぐ。枠の拡大、借換えの勧誘、他社借入金の一本化、完済者に対する執拗なまでの再借入れへの勧誘等がそれである。
高利貸しへの批判に対し、業界団体はよく「短期・小口の貸出しは生産性に寄与しており、一定の社会的役割を果たしている」と存在意義を強調する。しかし、大手サラ金に限定した場合でも契約期間は「3〜5年」が最も多く、中小業者では「10年以上」が最多(資料@)。クレジット会社等を含めた貸金業者全体では、やはり「10年以上」が最多(資料A)というデータが報告されている。
また、貸付残高が50万円を超える割合は、武富士で全体の67.4%、アコムで49.9%、プロミスで55.2%、アイフルで32.2%(無担保貸付に限れば43.2%)と報告されており(資料C)、「短期・小口」との答弁は実態から遠くかけ離れた方便にすぎないことが判明する。
さらに、「新規顧客の他社利用件数」が「0〜2件」の割合を調査すると、最大手こそ全体の78.2%を占めるが、それ以外はすべて50%を下回っていることが判明する(資料A)。多重債務者の生活状況を観察すれば、3社目、4社目の借入金のほとんどは既往借入先への返済資金であることが容易に推測できるのであり、「生産性のある貸出し」という答弁もまた実態と一致していない。
貸金業者の社会的有用論は、統計上、破綻を来たしていることが判明するのだ。
5・借りてみて初めて分かる高金利
借金を完済し終えた債務者に対する「その会社を再利用するか?」とのアンケートがある。完済し終えたということは、契約条項が円満に履行されたことを意味する。どんな契約であっても、契約を締結しこれを誠実に履行し終える過程の中で、契約両当事者間に相互の信頼関係が築かれていくことが自然であり、その信頼関係が、将来の再利用への重要な要素となる。しかし、貸金業者と債務者との間には、このような信頼関係は必ずしも構築されない。
アンケート結果では、何と26.6%もの人が積極的に「いいえ」と回答しているのである(資料A)。完済者の実に4人に1人が再利用を希望しないという状況は、他の契約関係ではおよそ考えられない。
さらに注目すべきは、再利用を希望しない者の内の80.3%が、希望しない理由として「金利が高い」と回答している事実である(資料A)。先に、多重債務者は金利に関心がないのかを自問したが、その答えがNoであることが明確に裏付けられた結果となっている。
この数字が意味することは、貸金業者の高金利が「借りてみて初めて分かる」システムになっているという事実である。すなわち債務者は、金利での競争による収益悪化を避けるため、利便性の強調とテレビCMによるイメージ・認知度の向上に躍起になる貸金業者によって、高金利であることを理解せずに借りさせられるのだ。一旦借りさせられた債務者は、何年間にもわたり、金利低下の恩恵をほとんど享受しないまま返済を続けさせられる(資料A,新規顧客への平均貸出金利と既存顧客へのそれでは、最大手こそ2.5%程の差があるが、それ以外はどれも1%程度にすぎない)。
返済に苦しむ借金地獄の中で、初めて高金利であることを知らしめられる実態は、「騙まし討ち」と表現しても過言ではなかろう。
6・まとめ
自由競争市場では、需給バランスによって価格が決定される。一般に、これを市場原理と呼ぶ。市場原理が正当に機能するためには、需要者・供給者が共に合理的な判断能力を有していることが不可欠であり、ことに消費者信用市場を含むBtoCの市場では、弱者であるC(消費者)に対し十分な情報が提供されるための環境整備が必要であることは論を待たない。この環境が整備されなければ、B(事業者)による恣意的価格決定が容易になるのである。
先に紹介した私の相談者は、提供されていない情報を自ら収集することで価格の低下を実現した希少な消費者の例であるが、すべての消費者にそれを求めることは酷である。とすれば、環境整備のためには、B(事業者)の営業姿勢が問われるはずであるが、検証した様々なデータは、消費者信用市場が「B(事業者)による情報提供」という課題を克服できていない現実を物語っていた。
貸金業者の営業姿勢が変わらない以上、消費者信用市場で市場原理は機能しないのである。

※ 本文中の資料は省略しました。

 

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