司法書士と簡裁代理権〜司法書士法改正の影響

「司法書士と簡裁代理権」

1 簡裁代理権までの道のり
平成13年6月12日付の司法制度改革審議会意見書において、司法書士の簡易裁判所における訴訟代理権については「信頼性の高い能力担保措置」を講じたうえでこれを付与すべきとされ、これを受けた平成14年4月24日付の国会審議において、司法書士法の大幅な改正が行われた。
読者諸氏もご存知のとおり、これまで司法書士は「裁判書類作成業務」を通じて紛争解決という国民の法的ニーズに応えてきた。ことに多重債務問題における実績は大きく、個々の事件処理はもちろんのこと、関係諸団体との協調関係構築にも力を注ぎ、実務面・運動面の双方において幅広い活動を行ってきたものと自負する。地道な活動は、平成13年4月1日から施行された個人債務者再生手続の担い手としての期待につながり、民事法律扶助法が改正され「書類作成援助」が新設されることになり、ヤミ金問題が勃発してからはあらゆるメディアや行政機関から取材や相談、講演依頼が寄せられるに至っており、着実にその成果が社会に浸透してきたと言い得よう。
今般の司法書士に対する簡裁代理権付与は、この分野における実績の積み重ねなくして実現化はあり得なかったものと考える。簡裁代理権の実現は、一面においては、多重債務問題を通じて社会的な存在意義を示してきた司法書士への評価と考えられるのである。

2 司法改革における簡裁代理権の位置付け
その一方、「簡裁代理権」は司法改革においていかなる位置付けにあるのだろうか。同意見書によれば、司法書士に対する簡裁代理権の付与は、法曹の質及び量の拡充を前提として「国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性にかんがみ、利用者の観点から、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要がある」とされており(  は筆者)、司法書士への簡裁代理権付与は、現時点において過渡的・一時的なものと捉えられていると考えざるを得ない。先に「一面において」と述べたが、簡裁代理権は司法書士が「掴み取ったもの」では決してなく、「与えられたもの」であることもまた事実なのである。司法書士による簡裁訴訟代理関係業務(*)が、過渡的・一時的なものとして終焉を迎えるか、制度として確立していくかは、利用者である国民から、司法書士がこの分野においてどれだけの評価を得られるのかにかかっている。「与えられた代理権」が、やがて「国民のために不可欠な代理権」として認識されるようにになるか否かは、今後の司法書士の実績次第なのである。
司法書士会でも以上の状況を重く受け止め、相談窓口の拡充、ホームページや広報紙による啓蒙活動等を通じ、国民への幅広いリーガルサービスの提供に努めている。筆者の属する静岡県司法書士会でも、県内2会場の対面式常設法律相談、クレサラ・少額訴訟・個人再生の各常設相談電話、有志による県内7箇所の常設クレサラ相談電話を設置するほか、不定期的に各種の110番活動を実施しており、法的紛争を抱える県民から多数の相談が寄せられ、その多くが現実に解決まで導かれている。また行政に対し、広報紙や活動報告書を通じた情報提供や意見交換会の開催を定期的に行うことで、多くの行政機関との連携体制を確立することができ、行政機関を訪れた相談者の確実な事件処理が実現している。
これら司法書士会としての社会的活動に加え、国民全体に司法書士の存在意義を示すうえでより一層重要なことは、司法書士個々の実務実績の積み重ねと考える。実績は、ひとつは「量」で評価される。毎年発行される「司法統計年報」では、司法書士の簡裁訴訟関与率が正直に明かされるのであり、もはやごまかしは効かない。もうひとつは「質」である。代理人として活動する以上、提供する法的サービスの質は弁護士と同レベルでなければならない。多岐にわたる国民からの要請に対し、常に最高レベルのリーガルサービスを提供するためにも、実務に負われるだけでなく不断の研鑚に邁進しなければならない。
*)司法書士法第3条1項6号に規定する簡易裁判所における代理業務と、同7号に規定する
裁判外の和解についての代理業務を総称し、「簡裁訴訟代理関係業務」と呼ぶ

3 認定司法書士の状況
ところで、改正司法書士法は平成15年4月1日に施行された。「能力担保措置」にあたる特別研修並びに簡裁訴訟代理能力認定考査は既に第2回目までが終了し、本稿執筆中は既会員にとっては最後となる第3回目の特別研修が実施されている最中である。第1回目の認定司法書士は平成15年7月28日に誕生した。全国で2,989名の司法書士が考査に合格し「認定司法書士」として簡裁訴訟代理関係業務に従事する資格を得ている。同様に第2回目は、平成16年3月1日に3,413名が認定を受けている。考査の合格率は、全国平均で1回目が78.9%、2回目が77.5%と発表されている。
全国の司法書士数は17,606名とのことで(平成16年2月1日現在。日司連ホームページより)、認定司法書士の割合はおよそ36%ということになる(第3回目を含めれば約半数程度となろう)。なお、次年度以降の司法書士試験合格者に対しては、毎年1月〜2月にかけて行われる新人研修会の一環としてカリキュラム化される方向とのことであるから、今後このパーセンテージは増加していくことになる。

4 認定後の実務の変化  〜 債務整理案件を中心に
認定後の実務の変化として、代理人として法廷に立つことももちろんだが、それよりも訴訟外での示談(和解)交渉が可能となった点が大きく、簡裁訴訟代理関係業務全体の8割程度が訴訟外の和解で解決されている。相手方との直接交渉が認められなかった従前に比べ、裁判外での解決は、債務名義化の回避・紛争解決までのコスト削減と時間短縮・事務量の軽減等が図れるためにメリットが大きく、筆者自身も大いに活用している。
筆者が実際に受任した事件は、貸金請求・売掛金請求・エステの解約・登記請求訴訟・ダイヤモンド購入契約の消費者契約法による取消し・敷金返還・契約解除に伴う設計料返還請求などと多岐にわたるが、圧倒的多いのはやはり債務整理案件であり、毎日のように新件の受任がある。相談者の多くは近日中に返済日を控えていることが通常で、早急な対応を求められるケースがほとんどであるし、ことに悪質な取立が横行するヤミ金被害の場合にはその要請が一層強い。このため筆者の事務所でも、司法書士2名・有資格者1名の3人体制を敷き、早期の受任に努めている。
「早急な対応」という点、代理権取得は大きな武器となった。金融庁ガイドラインは貸金業者に対し、弁護士若しくは認定司法書士の介入があった場合、もしくは債務整理のための裁判手続に着手した場合に、債務者への取立行為一切を禁止している。代理権を取得する以前は、裁判所への早期申立以外に取立を止める正当な手段がなく、このため長期の延滞納があり既に激しい督促を受けている者からの依頼や、依頼が何件も重なった場合などへの対応には苦慮させられた。この点現在では、事情聴取後直ちに「受任通知」を発送することで依頼者の平穏な生活がいち早く確保できる一方、直接交渉によって訴訟外での過払い金回収や返済計画立案といった新たな選択肢も加わり、依頼者の満足度は以前にも増して大きいように感じられる。

5 司法書士の責務
平成16年4月1日より簡易裁判所の事物管轄が140万円に、少額訴訟の訴額が60万円にいずれも引き上げられ、その機能が拡充された。利用者である国民に最も身近な存在として、いわゆる市民型紛争を簡易かつ迅速に解決する使命を負った簡易裁判所は、司法改革に伴う司法アクセスの拡充と国民の権利意識の向上とが相まって、ますますその存在意義が高まり、利用頻度も高まっていくことであろう。関心の高まる簡裁訴訟を制度面で支え、かつ国民の紛争解決に粉骨砕身すること、これが代理権と引き換えに国民から負託された司法書士の責務であると考える。そのための課題として、「受け皿の拡充」が急務である。残念ながら、すべての認定司法書士が簡裁訴訟代理関係業務に従事しているとは言えないのが現実である。認定を受けたことの意味を重く受け止め、認定司法書士全員が国民の法的ニーズの受け皿となることを強く希望する。

 

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