総量規制の導入と多重債務相談への影響

■ 300万人の多重債務者が相談窓口に殺到?
株式会社日本信用情報機構(サラ金系の信用情報機関で、旧・全国信用情報センター連合会〔全情連〕の業務を承継した個人信用情報機関。改正貸金業法の下で、いわゆる「指定信用情報機関」として、本稿で取り上げる「総量規制」の実効性を支える)の統計では、平成21年5月末時点で、同社に加盟するサラ金3件から借入れのある債務者は146万8000人、同じく4件で87万3000人、5件以上だと58万9000人と報告されている。
多くの債務者は、広く名前の知られた大手のサラ金から借り始め、次第に中小の業者へと借入先を拡大していくが、借入先が3件とすると、経験的にいずれも大手からの借入れであり借入総額は200万円台となることが多い。自転車操業状態に陥る一歩手前、あるいはなり始めといったところだ。

■ 改正貸金業法の完全施行!!
平成22年6月までに、改正貸金業法は完全施行される。平成18年12月に成立した同法はこれまで、段階的な施行を重ねてきたが、完全施行により、
@ 出資法所定の刑罰金利を年20%へ引き下げ【「グレーゾーン金利」の廃止】
A 年収の3分の1を超える貸付けの禁止【「総量規制」の導入】
という改正法のふたつの大きな柱が、いよいよスタートすることになる。

■ 想像できますか?「年収の3分の1以上は借りられない」という現実を。
一般的に、サラ金利用者層の年収は500万円以下と想定される。仮に年間4か月分のボーナスが支給されるとしても、1か月あたりの平均総支給額は500万円÷16カ月=31万2500円となる。一方で、やはり経験的に多重債務相談者の1か月あたりの収入は手取りで20万円前後であり、ボーナスが支給されない方も少なくないことを加味すれば、「500万円以下」という数字はむしろ多過ぎるかもしれない。
年収500万円の方の場合、総量規制が導入されると、単純計算で借入可能上限額は167万円(500万円×1/3)となる一方、3件以上のサラ金から借入れのある債務者の借入総額が200万円台となれば、彼らはすでに総量規制によって消費者信用市場からの退場を求められる対象となっていることになる。
3件以上のサラ金から借入れのある債務者293万人が、総量規制の施行により一斉にサラ金から追加貸付けを断られ、たちまち返済に窮して相談窓口に殺到するという事態は、以上の数字によって現実感を帯びることとなろう。

■ 年収の3分の1を超える借金は、生活を破綻させる!
これだけ大量のサラ金利用者(=「生活のための小口資金需要者」と言い換えてもよい)に混乱を生じさせ得る改正貸金業法は、悪法なのだろうか?
例えば、手取り20万円(支給額で24〜5万円程度)の場合、仮に一人暮らしであったとしても、1か月あたりの余裕資金はせいぜい3〜4万円といったところだ。家族を養っていれば、配偶者の収入を加味したとしてももっと厳しい生活を強いられよう。つまり、借金の返済は、月々この程度の金額に収めなければならないわけだ。
ところが、サラ金3社から200万円の借金をした場合、3社あわせた月々の返済額は5万円を超えることが容易に想像できる。こうなると、返済資金を確保するために生活費に無理なしわ寄せが生じる。歪んだ生活が長続きするはずもなく、やがては返済資金を確保するため、他社での借入れに走る。自転車操業の始まりだ。
つまり、年収の3分の1を超えてまでサラ金から借金するということは、「生活の破綻」を意味することになる。「生活の破綻を招くような貸付けは禁止しよう」というのが、総量規制導入の趣旨であり、そのことは決して非難の対象とはならないはずだ。

■ 「借りられない」人の生活はどうなるの?
しかし、総量規制の導入により、一定数のサラ金利用者が「借りられない」状態に陥ることは避けられない。サラ金利用者 =「生活のための小口資金需要者」とするならば、「借りられない」ことになった彼らはその日の生活にも窮する状況が生じる。
ここで出番となるのが、セーフティネットと呼ばれる社会保障制度だ。読者の皆さんは昨今、生活保護の問題がマスコミ等でしばしば取り上げられているとお感じではないだろうか?
平成18年の貸金業法成立のときから、「借りられない」債務者の大量発生は懸念材料であり、「借りられなくなった人がヤミ金へ走る」が、貸金業者側の常套句でもあった。このため、弁護士や司法書士は、借りられなくなった人が「生活のための小口資金」に困らないために、生活困窮者の最後の砦とも言える生活保護に注目し、生活保護行政の健全化に力を入れてきたのだ。

■ 私たちの使命!!
改正貸金業法完全施行が間近に迫った今、多重債務相談に関わる相談員の皆様、そして法的救済に携わる私たち法律家の使命は、大量発生も想定され得る多重債務相談者のすべてに対し、借金を確実な法的解決へと結びつけることはもちろんのこと、彼らや彼らの家族の生活が決して破綻しないよう、「生活再建」のためのアフターフォローに全力で取り組むことではないか?
数年間かけて育んできた行政担当者の皆様と私たち静岡県司法書士会との連携は、完全施行後の多重債務相談の現場で、如何なくその成果が発揮されるものと確信している。


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