オーナー株主の死亡に伴う株式の承継

【事案の概要】
A社は亡父(B)が創業したいわゆる町工場です。 株式の8割以上を創業者であるBが所有していたところ、今般、Bが死亡しました。 Bの相続人は、妻(C)、事業の後継者である長男(D)、事業を手伝っている二男(E)、会社勤めの三男(F)の3名ですが、D・EとFとはBの生前から折り合いが悪く、Bが保有する株式の遺産分割も難航が予測されていました。Bはこのような事態を憂い遺言の作成を準備していたのですが、急激な体調の悪化により遺言を遺すことができないまま他界してしまったそうです。 Dは円滑な事業経営を第一に考えてできることを迅速に進めたいと考えていますが、突然に夫を失ったCは体調を崩しており、日常生活には支障がないものの、遺産の分配を考えることができるような精神状態にはありません。Dの意向に適うような有効な法的手続きはありませんか?
【実際に選択した解決策】
 株式の所有者が「株主」です。株主は所有する株式数に応じて、株主総会で議決権を行使できます。株主総会は、会社の役員を選任・解任したり会社の基本方針である定款を変更したりする株式会社の最高議決機関ですので、発行済み株式の8割以上を有していたBは、オーナー株主として自身の意のままに会社経営を進めることができたということになります(株主総会での議決権行使のほかにも、株主には、配当金を受領する権利などが認められています)。
 ところで、株式も相続によって法定相続分の割合に応じた遺産共有(相続開始から遺産分割協議が完了するまでの間、Bの遺産は相続人全員(C・D・E・F)の共有状態となります。この状態を、相続による共有ではない通常の共有と区別するため「遺産共有」とよびます)の状態となります(株式や債権のような所有権以外の財産権を数人で有している状態を「準共有」といいます(264条))。
株式が準共有となる場合、株主としての権利は準共有者全員(事案の場合であればC・D・E・Fの4名)に帰属するのですが、会社の運営上は、株主の頭数が増えるのは株式管理の面からもコストの面からも望ましくありません。そこで、会社法は、株式の準共有者が権利行使する者1名を定めて会社に届け出なければ、以後の権利行使ができないという定めを置いています(会社法106条)。
この「権利行使者」を決定することは、共有物の「管理」に該当すると考えられているため、共有持分の過半数によって決せられる事項に該当しますので(現行民法252条)、DはCの同意を得ることにより6分の4の持分を確保できれば、共有物の管理としてD自身を権利行使者と定めることが可能となるわけですが、Cとは当面の間、遺産に関する話し合いができる状態ではないとのこと。Eの協力は得られますが、D・Eだけでは6分の2にしかならず過半数に達しません。
結果的にこの事案では、CがBの死を受け入れ、遺産の問題と向き合うことができるようになるまでの半年ほどの間、手続きを進めることはできませんでした。
なお、会社法の規定に基づき権利行使者を定めることと、遺産共有の状態にある株式について遺産分割協議により共有状態を解消することとは、別途の手続きとなります。この事案では、株式以外の遺産を含めた全体の遺産分割についてD・F間での協議が難航し、解決までには長い時間を要しました。
【改正法の利用 〜 共有物管理許可決定 】
 改正法では、共有者が裁判所に請求することにより、ア)所在不明の共有者、イ)知れている共有者のうち相当期間を定めて催告したにもかかわらず期間内に賛否の回答をしない者、のいずれをも共有物の管理行為を決定するに際して除外することを認める制度(共有物管理許可決定。252条2項)が新設されました。
 すなわちこの事案では、Dが裁判所への申立てに先立って、知れている共有者であるC・E・Fの3名に対し「権利行使者をDとすること」についての賛否について催告します。Fからは反対の回答があることが予測されますが、Cの状態を考えると、反対はしないものの積極的に賛成の回答をすることも期待できません。
 Cから回答がない場合、Dは裁判所に対し、裁判所からCに対し再度催告をするよう求めることができますが、この催告にもCが回答しない場合は、Cを除外したD・E・Fの3名の持分合計(6分の3)の過半数で決することができるようになります。
この結果、D・Eの賛成によって賛成者は6分の2と過半数に達するため、「株式の権利行使者をDとする」との共有物管理決定が得られることになるわけです。
【手続きの概要と注意点】
(1)所在不明の要件は不要
 所在不明の共有者がある場合に利用できる「共有物変更許可決定」とは異なり、共有物管理許可決定は、すべての共有者が知れている場合であっても利用できます。もちろん、所在不明の共有者がいる場合でも利用でき、この場合の所在不明の共有者は、所定の手続きを経ることによって除外されることになります。
(2)遺産共有の場合
 「所在不明共有者の持分取得」や「所在不明共有者の持分譲渡権限付与」の場合、遺産共有については相続開始の日から10年が経過しなければ利用することができませんが、共有物管理許可決定の場合はこのような制限がありませんので、この事案のように相続によって遺産共有が生じた場合であっても、直ちに共有物管理許可決定の申立てをすることができます(この点は、共有物変更許可決定の場合も同様です)。
(3)申立共有者からの催告
 共有物利用許可決定の申立てをしようとする共有者は、裁判所への申立てに先立ち、知れているすべての共有者に対して賛否の回答を求める催告をします。この催告は、2週間程度の回答期間を定めて行う必要があるとされています。
 全員から回答があれば、この時点で賛否いずれかの過半数が決しますので、手続きは終了します。
 回答がない共有者がある場合、裁判所に対し、その旨を明らかにして共有物利用許可決定の申立てをすることになります。
(4)公告
 申立てを受理した裁判所は、1か月以上の期間を定めて異議申出の機会を確保するための公告をします。
 この公告は、所在不明の共有者の有無にかかわらず行われます。
 申立共有者からの事前催告(3の催告)が適法に行われていないような場合、知れている共有者が異議を述べる可能性も否めないからであると考えられます。
(5)裁判所からの催告
 申立共有者からの催告に回答しなかった共有者に対しては、改めて裁判所から二度目の催告が実施されます。
 この催告の期間も、2週間程度と考えられています。
 この催告に対しても回答がなかった場合に、裁判所は共有物管理許可決定の裁判をします。
(6)共有物を使用する共有者に対する「特別の影響」
共有物管理許可決定の裁判があった場合、これに反対する共有者が現に共有物を使用している場合であっても、裁判の結果に従わなければなりません。
例えば、共有土地を共有者の一人が資材置場として利用していたところ、この共有土地を駐車場として第三者に賃貸することを内容とする共有物管理許可決定があった場合(借地借家法の適用がある賃貸借契約を締結することは共有物変更にあたりますが、同法の適用がない賃貸借契約の締結については共有物の管理に該当すると考えられていますし、いわゆる短期賃貸借については、改正法が共有物の管理に該当することを明らかにしています(252条4項))、以後は資材置場としての使用ができません。
そうすると、共有物を使用している共有者にとっては一定の不利益がもたらされることになるため、改正法252条3項では、共有物を使用する共有者に「特別の影響」が生じる場合には、当該共有者の承諾を得る必要があると定めて利益調整をしています。
なお、「特別の影響」について立法過程の議論では、共有物を使用する共有者の受忍すべき程度を超える不利益と考えられ、具体的には、共有物の使用者の変更、共有物の使用の条件の変更、共有物の使用の目的の変更、の三つの観点について、その必要性や合理性と共有物を使用する共有者が被る不利益とを比較衡量して検討するとの説明がなされていますが、具体的な適用については、実務の集積が待たれます。
【従来の手続きとの比較】
 改正法が施行されるまでの間は、共有物の管理は共有者間の協議に委ねられており、裁判手続きによる解決を図ることはできませんでした。また、所在不明の共有者がある場合には不在者財産管理人の選任を求めるなどの方法が考えられますが、別稿(共有物変更許可決定)でご説明したように手続きの柔軟性に欠くという難点がありました。
改正法施行後は、この事案のように共有物管理許可決定を利用することにより「持分の過半数」という共有物管理の要件を満たすようになるケースばかりではないかと思いますが、検討の価値がある制度であると考えられます。

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