消費者契約法A消費者契約法は万能か?

一 実効性の確保

消費者契約法は四月一四日の衆院本会議、二八日の参院本会議を経て可決された。前回検討のとおり、消費者トラブルの解決という機能を十分には果たし得ない状態のまま、来年四月一日には施行される予定である。同法が定める「消費者トラブルの防止及び円滑な解決を図る透明な最低限の民事ルール」は、法の実効性が確保されることではじめて有用なものとなることは言を待たない。比較的少額で、しかも主に立証の点において裁判にはなじみにくいという特性のある消費者トラブルを、現行の裁判手続を工夫し、あるいは裁判外の手続を積極的に利用することでいかに解決に導くかが今後の最大の課題となろう。
一一年一二月に国生審・消費者政策部会が発表した報告書によると「消費者契約に係る紛争は、紛争当事者間の相対交渉によって解決されることを基本とするものの、その公正かつ円滑な解決のためには、消費者契約に関 する紛争解決制度が整備されていることが重要である」とし、

等の必要性が述べられている。具体的には@について、国民生活センター・消費生活センターの一層の活用と、そこで活躍する相談員の法的専門性向上のための施策、B・Cについて、裁判所サービス・弁護士サービスへのアクセス改善・法律扶助制度の拡充・法曹人口の増員等の検討が必要とされている。
しかしながらその内容はいずれも具体性を欠き、実現には相当の時間を要することが容易に予想される。さらに問題なことには、契約法が成立したとしても、実際の紛争を法に照らし合わせて解釈する裁判官が、対等な合理的私人間の契約とそこから発生する紛争解決を前提としている民法・民事訴訟法上の固定観念から抜けきれないとしたら、いくら消費者に利用しやすい裁判制度を築いたとしても、事業者と消費者の能力格差という消費者問題が抱える根本的問題に対し十分な理解が得られないままに、「紛争の公正かつ円滑な解決」という契約法の趣旨とはかけ離れた結果が続発することにもなりかねない。ことに証拠偏在型といわれる消費者訴訟においてこの傾向が顕著となることは、過去の裁判例に目を通してみても容易に想像できる。

二 泣き寝入りは許さない

以上、消費者契約法の検討を続けてきたが、消費者保護に目が向けられた貴重な法律を十分に機能させるために、日々被害者からの相談を受ける立場にある我々司法書士は、法律実務家として何をすべきなのだろうか。
前回数字を挙げたように、現実に消費者トラブルの相談件数は増加の一途をたどっており、これは一方で、悪徳事業者が多大な利益を不当にむさぼっているという事実を克明に物語っているものである。我々は法に携わる者としてこのような社会的不均衡を容認していてよいものなのか。「おかしい」ことに声をあげ、行動することが法律家としての職務なのではないのか。我々には泣き寝入りを強いられている目の前の相談者に対し、今ある裁判手続を駆使することで全力で救済手段を提示する義務があるはずである。

三 調停の活用

我々が相談を受ける消費者トラブルは比較的少額なものが多く、訴訟に踏み切ったとしても費用倒れになりかねないケースが多い。そこでこの手の消費者トラブルについては民事調停を積極的に利用できないかと考える。
民事調停法第一条には、民事調停は「当事者の互譲により、条理にかない実状に即した解決を図る」ことを目指す制度であるとあり、学者によると「生の紛争自体の全体的根本的解決のために、厳格な手続規制を取り払った自由な簡易手続によって、必ずしも法規に基づかない条理裁判として機能すること」が調停の存在理由であり、とくに少額紛争については「非常に簡易な条理に基づく裁判という役割」を果たすと述べられている(以上、梶村太市・深沢利一著、新日本法規出版「和解・調停の実務」より)。少額の紛争については少額訴訟手続が用意されているが、こと消費者トラブルについては、一回の審理で判決が言い渡される同制度は立証の問題から考えてもやはり利用を躊躇せざるを得ない。その点調停手続は、右の説明にもあるように法規制が緩やかで厳格な立証責任を負うものではないと考えられるし、費用面から考えても、消費者本人による遂行が十分可能であるという点で非常に利用しやすい手続であると考える。

四 司法書士の取り組み

何より我々司法書士は、サラ金問題の分野で「債務弁済協定調停」なる被害者の実情に即した調停を実務に定着させた実績がある。このいわゆるサラ金調停は、今や多重債務者救済の有力な手段となっており、その運用方法は「特定調停法」という形で法制化されるまでに至っている。これはひとえに、サラ金業者対多重債務者=強者対弱者という関係にあることを、あらゆる場面で刻々と訴え続けてきた先駆者達の努力の賜物に他ならない。
そしてこの強者対弱者の関係は、そのまま消費者トラブルにおける事業者対消費者の関係に当てはめることができる。先に裁判官のことについて触れたが、調停委員についても、消費者=被害者との認識がもてる調停委員がどれほどいるかといえば疑問といわざるを得ない。このような調停委員に、悪徳商法による被害がいかに甚大であるかを理解させ、合理的私人間の契約という固定観念から脱却させるには並大抵な努力ではなかろう。しかし、民事調停には被害者救済の有力手段たりうる可能性が十分にある。このいわば「消費者調整調停」が、サラ金調停同様実務に定着するか否かは、ひとえに司法書士一人一人の取り組みにかかっているのではなかろうか。
司法書士は書面を充実させることで本人訴訟を支援している。よって我々がまずできることは、個々の事件に対し次のような詳細で充実した調停申立書を作成し、実状を裁判所や調停委員に訴えかけることであろう。

A @の契約が決して対等な条件のもとで締結されたのではなく、相手方に圧倒的に有利な状況での契約であり、これによって申立人に予期せぬ被害が発生したものであることを明らかする。
B 同様の悪徳商法による被害者が増加の一途をたどっているという事実、そのほとんどが泣き寝入りを強いられているという実態等、被害がいかに深刻であるかを国民生活センターやPIO-NET等の具体的数字を使って訴えかける。
C 最後に、せっかく成立した消費者契約法を絵に書いた餅としないためには紛争解決手段の早急な整備が必要であり、民事調停こそがその機能を果たし得る裁判手続である旨を訴える。

消費者契約法は、当初の議論から大きく後退した形で施行されようとしている。後退した契約法を、実効性の面でさらに骨抜きにさせないためにも、調停を利用した契約法に基づく被害救済を、本人訴訟支援を自負する我々司法書士の力でぜひとも実現させなくてはならない。

原稿一覧

司法書士法人浜松総合事務所

〒431−3125
静岡県浜松市東区半田山5丁目39番24号
TEL 053−432−4525
マップ